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IFRS第18号 損益計算書が変わる

国際会計基準審議会(以下、IASB)は、2024年4月9日、久々の大きな基準改定となるIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(以下、本基準)を公表しました。

本基準は、財務諸表全体及びその注記について規定していますが、本稿では、特に重要と思われる損益計算書のフォーマットと経営者が定義した業績指標(Management-defined Performance Measure, 以下MPM)にフォーカスして解説します。

目次

I. 損益計算書のフォーマットは統一されていたのか? 

IFRS会計基準の損益計算書のフォーマットは一般的にどの会社でも同じだと考えられがちですが、よく見ると損益計算書に表示される営業利益、事業利益、金融収益といった表示科目は、名称が同じでもその定義が異なっていることがあります。

実際、IASBが実施した100社を対象とした調査によると、60社以上が営業利益の数値を報告していますが、少なくとも9つの異なる方法で計算していると指摘されており、企業間の比較可能性は損なわれています。

したがって、投資家は損益計算書の企業間比較をする際に、各企業の段階利益の定義の違いを十分に理解する必要があります。

II. IFRS第18号で損益計算書はどう変わる?

損益計算書の構成について 

IFRS第18号では、損益計算書に表示される情報の比較可能性および理解可能性を高めるため、損益計算書の構成に以下の要求事項を設けました。 

損益計算書の区分及び小計

企業は収益および費用を、営業、投資、財務、法人所得税、非継続事業の5つに区分することになりました。各区分で留意すべき点は以下の通りです。

営業区分の明確化(非経常的損益の考え方)

本基準では、営業区分は、投資、財務、法人所得税、非継続事業に区分されない全ての収益費用から構成されるデフォルト区分(残余)と定義しています。

このアプローチは、純損益に含まれる投資、財務、法人所得税、非継続事業以外の全ての収益費用は、企業の営業活動から生じるというIASBの見解を示しています。

事業再編損などの臨時的損失については、非経常的であることから、営業利益から除外したいという要望は多くの企業であると思われますが、IASBは経常的か非経常的かは、営業であるか否かを決める特性ではないこと、また、それらを営業区分から除外することは企業の営業の成果を忠実に表現することにならないとしています。

投資区分の明確化

現在の損益計算書では、持分法による投資利益や政策投資株の受取配当金は事業の一環としての収入であるとの考え方を採用し営業利益に含める企業があります。

しかし、本基準では、関連会社、共同支配企業及び非連結子会社に対する投資から生じる収益及び費用は投資区分に分類するとしています。

従来は本業の一部であった事業(例えば物流部門)の過半を売却して関連会社とした場合、その関連する損益を営業区分であると考える企業も多いと思われますが、本基準では、このように投資区分の定義を明確にしており例外は認められません。

非継続事業とは

本基準でいうところの非継続事業からの純損失とは、IFRS第5号の要求に基づいて、一つのセグメントを売却したり、ある地域・国から完全撤退する場合に使う分類であり、通常の事業再編に伴う損失はこの区分に分類することは出来ません。そのような損失は営業区分に表示することになります。

営業費用の分析に関する要求事項

企業は、財務諸表利用者にとって情報の有用性が向上するように、損益計算書の営業区分において、費用の機能または性質のいずれか、もしくは両方の特性を使用して最も有用な構造化された要約を提供する事が求められます。

一部の営業費用を機能別、その他の営業費用を性質別に分類することが最も有用な構造化された要約となることもあるため、全ての営業費用を機能別か性質別のどちらかで統一的に表示する必要はないとされています。

ここで、機能別とは、製造、販売、管理、研究のような機能に基づく分類です。性質別とは、減価償却費、人件費、減損、評価損のように費用の性質に基づく分類です。

III. 経営者が定義した業績指標(MPM)

IFRS会計基準に基づく財務報告をしている企業の中には、財務報告上は表示されない企業独自の社内指標を使って経営成績を説明している会社があります。

典型的な例として、決算短信や投資家説明会資料でIFRSに基づく営業利益から、非経常的な項目やその他の調整項目を控除したものをNon-GAAP営業利益と定義して業績説明をしています。

財務諸表本表と注記(以下、財務諸表)の中ではこのような所謂Non-GAAP指標を使うことはできませんでした。

しかし、今回のIFRS第18号では、経営者が定義した業績指標(MPM)を財務諸表の中で開示し、損益計算書の段階利益との調整表も開示することを要請しています。

経営者が定義した業績指標(MPM)の特定

本基準では、経営者が定義した経営指標を、次の3つの要件全てを満たす収益及び費用の小計と定めています。

  1. 企業が財務諸表の外で一般投資家とのコミュニケーションで使用している指標。
    これは経営者による決算説明資料、プレスリリースで使われるもので、口頭によるコミュニケーションは含まれません。
  2. 企業全体としての財務業績の一側面についての経営者の見解を企業が財務諸表利用者に伝えるために使用する指標。
  3. 収益及び費用の小計ではあるが、以下のような財務諸表利用者が容易に算定できるものや一般に広く使われているものを除く指標。
    • 売上総利益
    • 減価償却、減損前営業損益(EBITDA)
    • 営業利益と持分法投資利益の合計

なお、収益のみ又は費用のみの小計、資産・負債・資本及びそれらの組み合わせの指標、非財務指標は経営者の定義した業績指標(MPM)には該当しません。

経営者が定義した業績指標(MPM)の開示

経営者が定義した業績指標(MPM)としての条件を満たす全ての指標は、財務諸表の単一の注記においてまとめて開示することが要求されています。

注記には以下が含まれます。

  • MPMは、企業全体の財務業績の一側面に関する経営者の見方であり、他の企業の類似した指標と必ずしも比較可能ではないこと
  • MPMが、企業の財務業績に関する有用な情報を提供すると経営者が考える理由
  • MPMの計算方法
  • MPMと損益計算書で開示される小計(段階利益)との調整表(税効果及び非支配持分への影響を含む)
  • MPMを変更・追加・中止する場合はその理由

単にIFRS営業利益とNon-GAAP営業利益(MPM)の調整額を示すだけでなく、調整項目毎に関連する税効果と非支配持分に帰属する純利益まで開示する必要があります。

これは一株当たり利益(EPS)の算定において、法人所得税後の親会社帰属利益が重要となるためです。

調整表作成にあたっては、調整項目に税効果があるかどうか、どの子会社で発生しているかを正確に把握する必要があります。

この調整表により、従来は必ずしも十分に説明されていなかったNon-GAAP指標と損益計算書の段階利益との関連性が透明化されます。

財務諸表の重要な注記になると同時に、会計監査人の監査対象ともなるので、作成には相応の時間と慎重さが必要になります。

IV. 適用日及び経過措置

本基準は、2027年1月1日以降開始する事業年度から適用されます。

3月決算であれば2028年3月期の期中報告期間からの適用になります。

早期適用も認められており、早期適用を行う場合はその旨を注記することが求められます。

また、本基準を最初に適用する期間の直前の比較情報に関して、従前の損益計算書との調整表の開示が必要になります。

従って、実際には、2027年3月期から準備しておく必要があります。

V. まとめ

IFRS第18号について、損益計算書のフォーマットの変更と経営者が定義する業績指標(MPM)にフォーカスして解説をしましたが、ポイントは、新たな損益計算書の構成により、投資家にとって企業間及び時系列の比較が可能な有用な企業財務業績の要約を提供する事が求められていることと、従来プレスリリース等で非監査情報として提供されていたNon-GAAP指標、すなわち、経営者が重要視する企業の財務業績の一側面をMPMとして財務諸表の中で開示し、会計監査人の監査も受けることで、より信頼性のある情報として開示することが求められるということです。

今後、日本の会計基準やUSGAAPも財務諸表内でMPMの開示を求めるかどうかは現時点でわかりませんが、その動向についても注視していく必要があります。

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著者 : 浜嶋哲三
出版社 : Beyond Researchオリジナル
出版年 : 2024年

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この記事を書いた人

浜嶋 哲三のアバター 浜嶋 哲三 浜嶋哲三公認会計士事務所代表

1981年にアーサーアンダーセン(現あずさ監査法人)に入所。2002年パートナー就任以降、電気機器、リース、IT等の幅広い業種に属する米国SEC登録企業の監査リードパートナーを歴任。2006年には、日本人の公認会計士として初の米国PCAOBの検査受検者となり、米国監査基準の厳しさを再認識。経済環境の変化と厳格化する会計監査基準に対応すると同時に経営者視点からの助言を提供。2013年以降、監査実務に従事すると同時に、あずさ監査法人常務理事として審査、品質管理の要職を担当。2022年7月浜嶋哲三公認会計士事務所代表就任。

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