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中小企業は積極的に適用!少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例

中小企業の業務負担や取得事業年度の税負担を軽減させるものとして、少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例があります。
今回は、少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の内容と適用のメリットをご紹介すると共に、少額の減価償却資産や一括償却資産の会計処理についてもご紹介をいたします。

目次

少額の減価償却資産の取得価額による税務上の取り扱い

少額の減価償却資産を取得した場合、少額の減価償却資産として取り扱う方法、一括減価償却資産として取り扱う方法、少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例を適用する方法、の3つに大別することができます。

3つの取り扱いの違い

はじめに端的にご紹介をすると、取得価額10万円未満の減価償却資産に対しては少額の減価償却資産として取り扱い、取得価額10万円以上20万円未満の減価償却資産に対しては一括償却資産として取り扱い、取得価額10万円以上30万円未満の減価償却資産に対しては、中小企業者等は少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例を適用することができます。

中小企業等が特例として利用できるのは?

少額の減価償却資産や一括償却資産として取り扱う方法は、中小企業を含む全法人に適用が認められている処理方法です。
中小企業等のみに認められている取り扱いが、少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例であり、今回は中小企業等であることのメリットのひとつとして、他の処理方法と比較をしながら、この特例を詳しくご紹介いたします。

少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例とは?※¹

少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例とは、中小企業者等が取得価額 30 万円未満の減価償却資産を取得した場合に、その減価償却資産の年間の取得価額の合計額 300 万円を限度として、全額損金算入することができる制度です。

特例の対象となる法人

少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の対象となる法人は中小企業者または農業協同組合等で、通算法人を除く青色申告法人のうち、常時使用する従業員の数が500人以下の法人です。

ここでの中小企業者とは、受託法人等を除く資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人及び資本または出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人のことをいいます。

法人が中小企業者等に該当するかどうかの判定は、原則として、少額減価償却資産の取得等をした日および少額減価償却資産を事業の用に供した日の現況によります。

特例の対象となる資産

少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の対象となる資産は、取得価額が30万円未満の減価償却資産です。
令和4年4月1日以後に取得等する場合は、少額減価償却資産から貸付の用に供したもの(貸付けされた資産 )が除かれます。貸付の用に供したものは除かれますが、器具および備品、機械装置等の有形減価償却資産のみならず、ソフトウェア、特許権、商標権等の無形減価償却資産も対象となり、また、所有権移転外リース取引に係る賃借人が取得したとされる資産や、中古資産であっても対象となります。

この30万円未満の判断における取得価額とは、通常1単位として取引されるその単位毎の取得価額であり、原則として、その資産の購入代価とその資産を事業の用に供するために直接要した費用(実際に事業に使用するために直接要した費用 )が含まれます。更に引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税などその資産の購入のために要した費用も含まれます。

法人が税抜経理方式を適用している場合は、消費税等抜きの価額が取得価額となり、法人が税込経理方式を適用している場合は、消費税等込みの価額が取得価額となります。

通常1単位とは、機械や装置については1台又は1基毎に、工具、器具及び備品については1個、1組又は1そろい毎のことであり、構築物のうち例えば枕木、電柱等単体では機能を発揮できないものについては、社会通念上一の効用を有すると認められる単位のことを指します。

例えば、税込319,000円のパソコンを購入した場合、税抜経理方式を適用している法人においては、税抜290,000円が取得価額となり、特例の対象の資産として取り扱いますが、税込経理を適用している法人においては、税込319,000円が取得価額となり、特例の対象の資産として取り扱いません。
また、税抜経理を適用している法人においても、パソコン本体の価額が税抜290,000円であり、取得に係る送料や手数料が税抜20,000円であった場合には、これらを合算した税抜310,000円が取得価額となるため、特例の対象の資産として取り扱いません。

少額の減価償却資産や一括減価償却資産として取り扱う資産、租税特別措置法上の特別償却、税額控除、圧縮記帳を適用する資産に対して、少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例を重複適用させることはできません。

少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の対象となる資産のうち、年間の取得価額の合計額 300 万円を限度として全額損金算入することができます。適用を受ける事業年度が1年に満たない場合には300万円を12で除し、これにその事業年度の月数を掛けた金額が限度となります。

例えば、上記の税込319,000円のパソコンを11台購入し、税抜経理を適用している法人が少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例を適用する場合、税抜290,000万円のパソコン10台までは合計額300万円未満のため損金経理を行うことができますが、残り1台については限度額を超えるため、固定資産として計上し減価償却を行う必要があります。

適用要件

少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の適用を受けるためには、事業の用に供した事業年度において、下記の事項を満たす必要があります。
・少額減価償却資産の取得価額に相当する金額につき損金経理すること
・確定申告書等に少額減価償却資産の取得価額に関する明細書を添付して申告すること

特例の適用例とそのメリット

上記の税込319,000円のパソコンを期首に購入及び事業供用し、少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の適用をした場合に、税抜経理を行う法人にどのようなメリットがあるのかをご紹介します。

この特例を適用しなかった場合は、パソコンは備品として固定資産に税抜290,000円で計上されます。この固定資産は減価償却により、耐用年数に亘って費用化及び損金算入されます。
簡便的に計算を行うと、290,000円を耐用年数4年で除した72,500円が、特例を適用しなかった場合に取得事業年度に計上することのできる損金の額です。

一方で、この特例を適用した場合は、290,000円を全額、取得事業年度に損金として計上することができます。
つまり、少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の適用をした場合の方が、しなかった場合よりも217,500円多く損金を取得事業年度に計上することができます。損金を多く計上することができる、ということは、法人所得を下げることと同意であり、そこから算出される法人税の節税に効果があり、適用することのメリットとなります。

しかしながら、減価償却の手続きでは取得価額が段階的に費用化及び損金算入されることにより、耐用年数期間終了後のパソコンに係る損金算入額の総額は特例の適用をした場合としなかった場合とでは同じになります。適用をした場合に損金を多く計上することができるのは、取得事業年度のみの損金に着目した場合に限ることに留意が必要です。

令和6年4月1日以降の特例の取り扱い

令和5年12月22日に閣議決定をされた令和6年度税制改正の大綱によると、特例について、下記のように示されています。

「対象法人から電子情報処理組織を使用する方法(e-Tax)により法人税の確定申告書等に記載すべきものとされる事項を提供しなければならない法人のうち常時使用する従業員の数が 300 人を超えるものを除外した上、その適用期限を2年延長する」

(総務省HPより引用https://www.soumu.go.jp/main_content/000919575.pdf)

e-Taxにより法人税の確定申告書等に記載すべきものとされる事項を提供しなければならない法人とは、内国法人のうち、事業年度開始の時において資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人、通算法人、相互会社、投資法人及び特定目的会社のことをいいます。

このように、令和6年4月1日以降も、インボイス制度や電子帳簿保存法への対応に迫られている中小企業の負担を増加させることの無いよう、令和6年3月31日までの特例と同様の特例内容が延長されますが、適用対象となる法人の範囲が狭くなります。

少額の減価償却資産との違い※²

少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例を適用することができる法人は中小企業等ですが、取得した資産に対して全法人が適用することができる会計処理として、少額の減価償却資産として取り扱う方法があります。

これは、法人が取得した少額の減価償却資産については、その法人がこの減価償却資産を事業の用に供した事業年度において、その取得価額に相当する金額を損金経理した場合に、その損金経理をした金額を全額損金算入することができるというものです。

少額の減価償却資産の適用ができる法人

この会計処理方法は、全ての法人が適用することができます。青色申告法人に限らず白色申告法人も対象です。

少額の減価償却資産の対象となる資産

少額の減価償却資産に該当する資産とは、使用可能期間が1年未満のもの、又は取得価額が10万円未満のものをいいます。
使用可能期間とは、法定耐用年数とは異なり、その法人の営む業種において一般的に消耗性のものと認識され、かつ、その法人の平均的な使用状況、補充状況等から推定される期間のことをいいます。

取得価額が10万円未満のものとは、少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例と同様に、通常1単位として取引されるその単位毎に判断し、消費税の税抜経理と税込経理で取得価額とする価額が異なります。
損金経理を行うことで適用され、確定申告書等にこの減価償却資産に関する明細書を添付して申告する必要はありません。

一括償却資産との違い※³

少額の減価償却資産に加えて、取得した資産に対して全法人が適用することができる会計処理として、一括償却資産として取り扱う方法もあります。

これは、法人が取得した取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産については、その減価償却資産の全部または特定の一部を一括し、その一括した減価償却資産の取得価額の合計額の1/3に相当する金額をその業務の用に供した年以後、3年間の各年において損金算入することができるというものです。

一括償却資産の適用ができる法人

この会計処理方法は、全ての法人が適用することができます。青色申告法人に限らず白色申告法人も対象です。

一括償却資産の対象となる資産

一括償却資産とは、取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産をいいます。


取得価額が10万円以上20万円未満のものとは、少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例と同様に、通常1単位として取引されるその単位毎に判断し、税抜経理と税込経理で取得価額とする価額が異なります。決算調整方式と申告調整方式により仕訳の計上方法は異なりますが、いずれの方式においても損金経理を行ったうえで、確定申告書等にこの減価償却資産に関する明細書を添付して申告する必要があります。

まとめ

少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例とは、中小企業者等が適用することができる、取得事業年度の法人税の節税に効果のある制度です。

この対象資産は、取得価額 30 万円未満の減価償却資産であり、年間の取得価額の合計額 300 万円が限度です。また、この取得価額の判定には法人の消費税の経理方法に留意をする必要があります。

減価償却資産を法定耐用年数に亘って費用化する通常の減価償却手続きとは異なり、早期にその取得価額を損金に計上する方法として、少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例以外にも、少額の減価償却資産と一括償却資産の取り扱いがあります。

少額の減価償却資産は取得価額10万円未満の減価償却資産が対象となり、一括償却資産は取得価額10万円以上20万円未満の減価償却資産が対象となります。これらは少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例とは異なり、全法人が適用することのできる会計処理方法です。

取得価額の低い順に適用内容をまとめると、下記の図のようになります 。

取得価額10万円未満10万円以上20万円未満30万円未満
適用できる会計処理少額の減価償却資産一括償却資産少額減価償却資産の特例
事業年度毎の上限300万円
青色申告不要不要必要
申告書の明細添付不要必要必要

これらは重複適用することができません。減価償却資産を取得した場合には、どの会計処理が適用できるかを確認しましょう。

少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例が適用することができるようであれば、積極的に適用をすることが中小企業の負担軽減に役立つことでしょう。

参考

※¹…国税庁https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5408.htm https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/08/12.htm https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5403_qa.htm
総務省https://www.soumu.go.jp/main_content/000919577.pdf
国税電子申告・納税システムhttps://www.e-tax.nta.go.jp/hojin/gimuka/index.htm
※²…国税庁https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5403.htm
※³…国税庁https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2100.htm

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