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ストックオプションの利便性向上について

令和5年度、及び令和6年度にストックオプションに関する税制度が改正され、ストックオプションを使いやすくなりました。ストックオプションの制度改正の内容や、そもそもストックオプションはどういった効果があるのか、といった点を解説します。

目次

ストックオプションの効果※¹

ストックオプションとは、自社やその他のストックオプションの効果関連会社の従業員・役員が、事前に定められた権利行使価格で自社株式を購入できる権利のことをいいます。

将来株価が上昇したタイミングでストックオプションの権利行使をすれば、権利行使価格と上昇した株価との差額分で利益を得られる、という報酬制度です。

例えば、ストックオプションの権利行使が1株100円とします。株価が上昇して、1株300円の時にストックオプションを権利行使すると、1株300円の株を100円で購入できるため、1株当たり差額の200円分得をすることになります。

スタートアップ企業が株式を上場し公開株にすると、株価が上場前より大きく上がることが予想されます。

上場前にストックオプションの権利行使価格を設定して発行し、株価が上がった上場後に権利行使することで、非常に高い利益を得られる可能性があります。

こうした利点のあるストックオプションを活用することで、大企業並みの給与や福利厚生といった待遇を用意できないスタートアップは、優秀な人材の獲得や、従業員・役員のモチベーションを維持することができます。

他の大企業で働く年収の高い即戦力を呼び込むためにストックオプションを発行することで、将来的な金銭リターンを示せる他、既存の従業員などが上場を目指す理由付けにもなります。

ストックオプションの税務上の取り扱い

株で得た利益には税金がかかりますが、ストックオプションで得た利益も同様に税金がかかります。

ストックオプションの税務上の取り扱いとして、大きく税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションの2つがあり、税制適格ストックオプションの方が税制面で優遇されています。

2種類のストックオプションについて、それぞれ解説します。

税制非適格ストックオプション

税制非適格ストックオプションは、ストックオプションの権利行使時に課税されます。

株価が権利行使価格を上回っている、つまりストックオプションによって得をした場合に、差額の利益に対して「給与所得」として課税されます。

ストックオプションの行使によって発生した給与所得は、他の所得と合算して計算され、所得の金額によって5%~45%の所得税と、10%の住民税を課せられます。

さらに、ストックオプションによって取得した株式を売却した場合に得た利益は「譲渡所得」として課税されます。

この譲渡所得は他の所得とは合算されず、20.315%の税金が一律でかかります。

税制適格ストックオプション

税制適格ストックオプションは、一定の要件を満たした場合に適用されるもので、税制面で優遇されています。

税制適格ストックオプションの権利行使をして株を取得した段階では課税されず、行使によって取得した株を売却した段階で税金がかかります。ストックオプションの権利行使価格と株価の差額に課税され、得た利益は譲渡所得として20.315%の税金が課されます。

税制非適格ストックオプションではストックオプションを権利行使して株を手に入れた段階で課税されてしまうため、権利行使によって得た株をお金に換える前に税金が発生するというデメリットがあります。

また、税制非適格ストックオプションでは権利行使時の利益は所得として、他の所得と合算されて計算することになってしまいます。

所得の金額が大きくなると税率もそれだけ高くなるため、支払う税金が多額になります。

税制適格ストックオプションの場合、ストックオプションによって得た利益は全て株を売却したタイミングで課税されるため、株をお金に換えたタイミングで税金が発生することになり、税金の支払資金を確保できるというメリットがあります。

また、ストックオプションによる利益は全て譲渡所得となるため、税率は20.315%と一定であり、他の所得と合算して計算せずに済むというメリットもあります。

税制適格ストックオプションには上記2つのメリットがあるものの、税制適格と認められるためには、従来は一定の要件を満たす必要がありました。

この要件を緩和することでストックオプションの利便性を向上し、税制面からスタートアップを後押しすることになります。

税制改正による3つの変更点※²

税制適格ストックオプションの改正は3点あります。

それぞれについて、解説していきます。

保管委託要件の緩和

会社が非上場の段階で権利行使によって株式を取得した場合、税制適格として扱われるためには、従来は証券会社などと契約し、従業員用の口座を開設して株の保管を委託する必要がありました。

このため手続上の煩雑さや金銭コストの負担がネックとなっていたのですが、この要件が緩和され、株式が譲渡制限株式の場合は証券会社に保管を委託する必要が無くなりました。

権利行使価額の改正

令和5年に新設された株価の算定ルールに係る改正租税特別措置法関係通達により、権利行使価格を1円以上と設定していれば、税制適格ストックオプションの要件を満たすことが明確化されました。

また、株価がない場合には、一定の条件のもと、純資産方式によりストックオプションの権利行使価格を設定することが可能になりました。

税制適格として扱われるためには、従来は1年あたりの権利行使価額は1,200万円が限度とされていました。

別の要件として、税制適格であるためには、権利行使価額をその時の株式の時価以上とする必要があります。

そのため、株価が低い会社設立の早い段階では権利行使価額は低く抑えられるものの、企業価値が向上し株価が上がった段階で入社した人材は権利行使価額もあがってしまいます。

権利行使価額の限度が年間1,200万円とされていたため、企業価値が向上した段階で入社した人材がストックオプションを全て行使するためには数年間かかってしまう場合もありました。

こういった事情があり、ストックオプションを使用しづらい状況にありましたが、令和6年度の制度改正により、権利行使価額の限度額が引き上げになりました。

具体的に述べると、下記の3つに分かれて引き上げとなります。

  • 設立から5年未満の会社は権利行使の限度額が2,400万円に引き上げ。
  • 設立から5年以上20年未満の会社で、上場後5年以内の会社は限度額が3,600万円に引き上げ。
  • 設立から5年以上20年未満の会社で、非上場会社は3,600万円に引き上げ。

上記以外の会社は従来通り、1,200万円が限度額になります。

社外高度人材への付与要件緩和※³

税制適格ストックオプションの付与は、原則的に社内の役員や従業員を対象にしていますが、例外的に一定の要件を満たす社外の「高度人材」にも税制適格ストックオプションを付与することができます。

この要件を緩和・拡充することにより、スタートアップが多くの社外人材を活用できるようにすることが制度改正の狙いです。

まず、従来はストックオプションを発行する会社の要件として、ハンズオン支援を行うベンチャーキャピタルなどから最初に出資を受ける時点において、資本金5億円未満かつ従業員数900人以下の会社であること、という要件がありましたが、今回の改正で撤廃されました。

付与を受ける社外人材の要件として、従来は弁護士や会計士といった国家資格取得者、博士の学位保持者に3年の実務経験が求められていましたが、これが撤廃されました。

また、上場企業の役員(取締役など)の場合、従来は3年の実務経験が求められていましたが、期間が1年に短縮されました。

さらに、新しく高度人材として、教授や准教授、上場会社の重要な使用人として1年以上の実務経験がある者、未上場企業等で役員及び重要な使用人として1年以上の実務経験がある者などが含まれることになりました。

まとめ

スタートアップ企業が優秀な人材を確保するための報酬として活用されるストックオプションのうち、税制面で有利となる税制適格ストックオプションに関する税制改正がされました。

これによってストックオプションの利便性が向上し、スタートアップ企業がさらに優秀な人材を活用する余地が広がることが期待されます。

税制適格ストックオプションを活用しようと検討している場合は、要件や制度改正の内容を把握し、適切な条件で付与するようにしましょう。


※¹

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/02_1.htm

https://www.city.toshima.lg.jp/101/tetsuzuki/ze/juminze/documents/1911141307.html

https://www.keisan.nta.go.jp/r4yokuaru/cat2/cat21/cat215/shinkokubunrikazei.html

※²

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/kaisei/230707/pdf/02.pdf

※³

https://www.soumu.go.jp/main_content/000919575.pdf

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