2023年10月からインボイス制度が始まりますが、それに伴い簡易課税制度について検討することをおすすめします。
簡易課税制度の適用基準やメリットデメリット、インボイス制度との関係性も深堀りしていきます。
簡易課税制度とは
簡易課税制度とは、消費税を申告する際の計算手法の一種です。売上高が一定以下の小規模事業者が利用できる制度で、当該制度の利用により税務計算の負担を減らすことができます。
本記事では簡易課税制度の基本的な説明と、制度のメリットデメリット、みなし仕入率まで、その適用条件と仕組みをご説明します。
小規模事業者の税務計算負担を減らす制度
簡易課税制度は、消費税の申告に際し、特に小規模事業者の税務計算負担を軽減するための制度です。
簡易課税制度では、課税取引の消費税額から支払った消費税を差し引く一般的な計算を省き、「受け取った消費税額-(受け取った消費税額×業種ごとの一定の割合(みなし仕入率))」という簡便な方法で納付する消費税額を算出します。
その結果、課税取引や非課税取引の区別や複数の税率の適用などの複雑な計算を避けられ、税務計算の負担を軽減することが可能となります。
業種ごとのみなし仕入率
みなし仕入率は国が定めた業種別の割合です。
簡易課税制度を適用するときの事業区分およびみなし仕入率は、次のとおりです。
事業区分 | みなし仕入率 |
(卸売業) | 第1種事業90% |
(小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業に限る)) | 第2種事業80% |
(農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業および水道業) | 第3種事業70% |
(第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業) | 第4種事業60% |
(運輸通信業、金融業および保険業、サービス業(飲食店業に該当するものを除く)) | 第5種事業50% |
(不動産業) | 第6種事業40% |
簡易課税制度のメリット・デメリット
簡易課税制度は、小規模事業者にメリットを提供しますが、一方でデメリットも存在します。
メリットは経理業務の手間が軽減されることです。
「受け取った消費税額 – 支払った消費税額」ではなく「受け取った消費税額-(受け取った消費税額×業種ごとの一定の割合(みなし仕入率))」で納税額を算出するため、日々の売上や仕入額に対して消費税の税率を設定する必要が無く、計算が単純化されます。
一方でデメリットとしては、実際の支払い消費税の額を控除することができない点です。
一度簡易課税制度を選んだ場合、2年間は一般課税に切り替えることができません。もし大規模な設備投資を予定しているなど、多額の支払消費税が発生する場合は、一般課税制度の方が有利になることもあります。
他にも、異なるみなし仕入率が適用される複数の事業を運営している事業者の場合、それぞれの事業区分ごとのみなし仕入率を用いて計算する必要があるため、かえって納税事務負担が増大する場合があります。
簡易課税と一般課税、どちらを採用すべきかは、自身の事業の運営を考慮して事業者自身が判断することが重要です。判断が難しい場合は、税理士などの専門家の意見も参考にしてください。
インボイス制度導入による簡易課税制度への影響
インボイス制度を導入することで簡易課税制度へどのような影響を与えるのか、そして小規模事業者の税務がどう変化するのかをご紹介します。
事業者が自身の税務処理にどのような影響があるのか、また、これからどのような選択をすべきなのかを検討する材料を提供します。
インボイス制度とは
インボイス制度とは、売上会社側が取引ごとに具体的な消費税額が明記された請求書(インボイス)を発行し、仕入会社側はその請求書に記載された消費税額を基に仕入税額の控除を行う方式のことです。
インボイス制度の導入により、消費税の計算が明確となり、課税の透明性が向上します。
すべての事業者はこの新しい制度に対応する必要があるため、早期の理解と対策が求められています。
簡易課税事業者はどう対処するか
インボイス制度の開始後も、簡易課税制度の利用は引き続き可能です。さらに、適格請求書を作成するために適格請求書発行事業者となったとしても、制度の適用に影響を及ぼすことはありません。
簡易課税事業者にとっては、受け取った消費税から控除できる消費税を計算するため、受け取る納品書や請求書がインボイスであるかどうかは影響がないです。
インボイスの2割特例と簡易課税制度についての検討
インボイス制度では期間限定で、2割特例という簡便な税計算が認められています。
こちらでは2割特例を深掘りし、簡易課税とどちらを採用すればいいのか検討していきます。
インボイス制度の2割特例とは
インボイス制度には2割特例という制度が設けられており、令和5年10月1日から令和8年9月30日までに限り、売上税額の8割を差し引いて消費税納税額を計算することができます。事前の届出は必要無く、消費税の申告書に一言、2割特例の適用を受ける旨を書けば足ります。
2割特例の対象となるのは、インボイス制度の開始を機に免税事業者から課税事業者になる事業者です。ただし、以下のいずれかに当てはまる事業者は2割特例を使用することができません。
- 基準期間(法人は前々事業年度、個人は前々年)の課税売上高が1,000万円を超える事業者
- 資本金1千万円以上の新設法人である場合
- 調整対象固定資産や⾼額特定資産を取得して仕⼊税額控除を⾏った場合
- 課税事業者選択届出書を提出して2023年10月1日の属する課税期間(例えば2023年4月~2024年3月)以前から課税事業者になっている事業者。
ただし、その課税期間中に課税事業者選択不適用届出書を提出し、その課税期間から課税事業者選択届出書の効力を失効させ、その後インボイス発行事業者の登録をすることにより課税事業者となる場合は、2割特例を受けられます。 - 課税期間の短縮をしている事業者
2割特例の目的は、新しく導入されたインボイス制度へのスムーズな移行を支援し、事業者が新制度への適応に時間を要するときに課税の負担を軽減することです。
ただし、この特例は令和8年9月30日までのものであり、その後は簡易課税事業者になるか、適格請求書がなければ仕入税額控除は認められなくなります。
2割特例と簡易課税どちらがいいか
2割特例と簡易課税制度のどちらが良いかは、各事業者の状況によります。
例えば卸売業ではみなし仕入れ率が90%となっているため、簡易課税制度を選んだ方が納める消費税が少なくなります。
一方で2割特例の場合、売上税額の8割を差し引いて消費税納税額を計算できるため、多くの業種では、2割特例を選ぶことで納税の負担を軽減できます。
2割特例の期間終了後は簡易課税を適用可
2割特例の期間が終わった時、または2割特例の対象者でなくなった時、要件に該当すれば翌課税期間から簡易課税制度の適用を受けられます。
2割特例の期間が終了した後でも、納税負担を軽減するための1つの選択肢としてください。
簡易課税制度を適用するための要件
簡易課税制度を適用するためには、基準期間の売上が5,000万円以下であったり、必要な書類を提出しなければならなかったりなど、適用要件があります。制度を利用したい場合は確認してから申請をしましょう。
基準期間の売上が5,000万円以下
簡易課税制度の適用条件の1つは基準期間の売上が5,000万円以下であることです。基準期間とは、個人事業者は前々年、法人は前々事業年度のことを指します。基準期間が1年に満たない法人は、年換算した金額での算定が必要です。
例えば、令和4年に課税売上高が5,000万円以下だった事業者は、令和6年にこの制度を利用し、消費税の申告や納税が可能となります。
必要な書類の提出
制度の適用を受ける場合、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。
適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出が必要で、納税地を所轄する税務署長あてに提出してください。
消費税簡易課税制度選択届出書を提出すれば、適用条件を満たす限り、簡易課税制度の適用を受けることができます。
まとめ
インボイス制度導入に際し、スムーズな取引、節税、事務手続きの簡素化などを目指し、簡易課税制度に目を向ける企業は増えているでしょう。簡易課税制度の基本的な適用基準やメリットデメリット、インボイス制度との関連性について深く掘り下げてきました。
ぜひインボイス制度への対応が始まる今、簡易課税制度への理解を進めてみてください。