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IFRS会計基準をめぐる最新動向-前編:第二の柱モデルルール

今後1年内にIFRS適用企業の開示に影響すると思われる事項が2点あります。一つ目が第二の柱モデルルールに関する税効果の開示、二つ目は、のれんの買収後の状況に関する開示です。

前編では、第二の柱モデルルールに関する税効果の開示への影響について説明し、後編ではのれんの買収後の状況に関する開示への影響について説明します。

目次

BEPS2.0とは

BEPS(Base Erosion and Profit Shifting/税源浸食と利益移転)による租税回避に対抗すべく開発された行動計画、いわゆる『BEPS1.0』はほぼ終了したものの、近年の欧米のIT企業を中心とした課税上の弊害に対応すべく『BEPS2.0』の検討がOECD等により2018年に開始されました。

一般的に従来型の多国籍企業においては、本社所在地国、工場、販売拠点といった恒久的施設のある国等で主要な事業活動を行っています。

しかし、IT企業では、本社所在地国と顧客のみが存在する国で収益サイクルが完結するケースも出てきました。

従来、「各国は恒久的施設が無ければ課税しない」との原則がありました。

しかし、デジタルビジネスの進展に伴い、恒久的施設がない顧客のみが存在する市場国においても、非常に大きな売上をあげることが可能となりました。

その生み出された価値に応じて、顧客のみが存在する市場国にも課税権が認められないとおかしいのではないかという疑問が、『BEPS2.0』検討の出発点となっています。

『BEPS2.0』は二つの柱からなる対応策で構成されています。

第一の柱は、全世界売上200億ユーロ(約2.9兆円)超かつ利益率10%以上の多国籍企業を対象として、10%を超える超過利益の25%の課税権を広く市場国に配分しようとするものです。2重課税は排除されますので、国と国との税の取り合いになることが想定され、導入には紆余曲折が予想されます。

第二の柱が、現在会計上の影響も含めて喫緊の課題となっているものです。こちらは、国際間の減税競争や過度の優遇税制を防止するため、全世界で最低税率を15%として企業に課税しようとするものです。対象企業は、直近4会計年度のうち2会計年度以上で全世界売上が7.5億ユーロ(約1,100億円)以上の会社になるため、第一の柱よりも広い範囲の企業に影響が出てきます。

第二の柱モデルルールとは

第二の柱モデルルールとは、簡単に言えば「全世界で15%のミニマム税率を導入しようとするもの」です。もう少し具体的に実務で課題になりそうな、ポイントを記載します。

日本においては、従来からタックスヘイブン税制があり、表面税率で20%未満の国にある子会社等については親会社の所得と合算して、日本で課税することになっています(ただし、外国税額控除は利用可能)。 しかし、実体を伴うビジネスを展開している子会社等は対象とならない等の例外が存在しています。 第二の柱モデルルールでは、そのような例外はないため、新たな追加課税が発生する可能性があります。

第二の柱モデルルールでは、最低税率15%は法定税率ではなく実効税率とされています。 その計算式の分母と分子も詳細な規定があり、十分な検討と理解をしなければ15%を下回っているのかどうか正確な判定ができません。

特に分母の利益は、連結財務諸表を作成するために使われた子会社損益計算書の連結消去前の数値を出発点として様々な調整を加えていきます。 そのため、実務上、連結決算パッケージで事前に十分な情報を集めていなければ期末決算に間に合わないと思われます。 タックスヘイブン税制で使われるような表面税率とは異なるため、今まで以上に本社経理部と税務部並びに子会社経理部との緊密な連携が必要となります。

実効税率が15%を下回った場合には、親会社所在国で上乗せ(トップアップ)課税がなされます。 日本企業の場合、日本の親会社で15%との差額について追加課税が発生します。

日本における税制の変更

日本においては、既に2023年の税制改正大綱に第二の柱モデルルールが盛り込まれ、3月28日の第211回通常国会で2023年度税制改正法案として可決・成立しました。 関連する政令等の整備が未了で、実際の施行は2024年4月1日以降開始事業年度からとされていますが、会計上の税効果会計の適用の影響は、それ以前から出てくる可能性があります。 実務上は、今後公表される税務会計のガイダンスに十分注意する必要があります。

2023年3月期決算上の留意点

① IASBの動向

このように複雑なルールを決算処理または開示するためには、かなりの時間を要するため、特に日本のように3月決算が多い国では、既に間に合わないタイミングとなっています。 そこでIASBは、公開草案「国際的な税制改革―第二の柱モデルルール(IAS第12号の修正案)」を公表しています。 簡単に言えば、第二の柱モデルルールが法制化されても、その結果生じる繰延税金資産、負債の計上を当面免除することが検討されています。 また、関連する開示事項についても検討されています。 例えば、第二の柱モデルルールが法制化された国や地域の開示、第二の柱モデルルールを適用した場合に15%未満となるような国や地域が具体的にあるのかどうか等です。

② 税効果会計上何が起こるのか

日本で税制上実際に課税が起こるのは、2024年4月1日以降の利益からです。 しかし税効果会計上は、2024年4月1日以降に現地低課税国で税務申告書上加算または減算される見込みの長期の一時差異(インサイド・ベイシスディファレンス)が、2023年3月末時点で存在している可能性があります。 もし、長期の一時差異が存在しているのであれば、2023年3月末で一時差異についてトップアップ税を反映した税率を乗じて、繰延税金資産または繰延税金負債を計上する必要があります。 当然、そのような計算をするのは非常に時間がかかりますので、IASBでは、例外規定の導入(IAS第12号の修正)を検討していますが、その決定が、3月決算の日本企業が株主総会招集通知を発送する5月中旬までに間に合うかどうかは依然不透明です。 仮に例外規定の発効が会計処理のタイミングに間に合わなかった場合に、会社法の連結財務諸表ではどのような取扱いになるのかは、事前に監査法人と協議しておく必要があるでしょう。

③ 日本企業が準備すべきこと

以上の状況下で日本企業が準備すべきと思われることを記載します。

1.第二の柱モデルルールへの正確な理解

既に対応されている企業も多いでしょうが、まずは、第二の柱モデルルールを正確に理解することが必要です。 正確に理解するためには税務の専門家のサポートは不可欠です。。 連結グループ内のどの子会社等が対象会社になるのかの分析が必要です。

2.決算実務の洗い出し・検討

次に、決算実務として、どのような情報がいつまでに必要か、新たな情報収集の仕組みが必要なのか、人材は足りているのか等の検討が必要でしょう。 会計上も、過去の決算で既に未配分利益に対する繰延税金負債やタックスヘイブン税制において必要な未払税金を計上している場合には、それらと第二の柱モデルで計上
される税効果はどのような関係になるのかの検討も必要です。

3.会計の専門家との協議/戦略・組織の再構築

IASBによる免除規定が発効すれば、実際に会計処理されるまでにまだ1年程度の猶予があるため、会計の専門家と協議することも必要です。 また、会計処理や開示の為の準備も必要ですが、企業の税務コストをマネージする観点から、『BEPS2.0』を前提としたグローバル税務戦略の再検討と再構築も必要でしょう。それに伴って、税務コストのガバナンス組織の構築も必要です。

後編では、IFRS適用企業におけるのれんの買収後の状況に関する開示への影響について説明します。

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この記事を書いた人

浜嶋 哲三のアバター 浜嶋 哲三 浜嶋哲三公認会計士事務所代表

1981年にアーサーアンダーセン(現あずさ監査法人)に入所。2002年パートナー就任以降、電気機器、リース、IT等の幅広い業種に属する米国SEC登録企業の監査リードパートナーを歴任。2006年には、日本人の公認会計士として初の米国PCAOBの検査受検者となり、米国監査基準の厳しさを再認識。経済環境の変化と厳格化する会計監査基準に対応すると同時に経営者視点からの助言を提供。2013年以降、監査実務に従事すると同時に、あずさ監査法人常務理事として審査、品質管理の要職を担当。2022年7月浜嶋哲三公認会計士事務所代表就任。

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