リスキリング(学び直し)が注目される中で、優秀な人材を引き付け、組織の活性化、競争力の強化を図るために人的資本への投資を増やす企業が増えてきています。中小企業を中心に、人材不足が問題視されている現代では、社員教育・人材育成への投資は企業の成長のために不可欠と言っても過言ではありません。一方で、社員教育を行いたくても研修コストの負担が大きいと感じている事業者の声も聞かれます。
その様な事業主の方に、人材開発支援助成金という助成制度をお勧めしています。人材開発支援助成金を活用することで、社員研修コストを抑えることが可能となります。この記事では、社員教育に力を入れる事業所様向けに、人材開発支援助成金活用のメリットと活用方法について分かりやすく解説します。
人材開発支援助成金とは
まず初めに、人材開発支援助成金について紹介します。人材開発支援助成金とは、従業員教育を行う会社に対して、研修にかかった費用の一部等が助成される制度です。
人材開発支援助成金を活用するためには、研修計画を作成し申請を行った上で研修を実施する必要があります。また、研修の内容や対象者により対象となるコースが異なり、コースによって助成率や上限が異なります。人材開発支援助成金を活用するためには、研修の対象者と研修内容を明確にしたうえで、申請するコースを選択することが重要です。
コースごとに要件が異なるため、始めに必ずチェックしてから取り組みを始めるようにしましょう。
人材開発支援助成金を活用するメリット
ここからは、会社が人材開発支援助成金を活用するメリットについて紹介します。人材開発支援助成金を活用するメリットには、以下の3つがあります。
1. 労働生産性の向上
一つ目のメリットは、労働生産性の向上です。労働生産性を向上させるためには社員一人一人の能力を向上させる必要があります。社員一人一人のスキルを向上させることが、会社全体の労働生産性の向上につながります。会社の労働生産性を向上させるためには、社員に対して教育の場を設けることが重要です。
2. 優秀な人材の確保
二つ目のメリットは、優秀な人材の確保です。高度成長期が終わり、日本で主流となっていた年功序列型のキャリア形成には限界がきています。転職や副業も一般的になり、数十年後のキャリアよりも、現在のスキルや経験、貢献度を評価してもらえる職場に優秀な人材が集まる傾向が強まっています。
組織の活性化、企業としての競争力の強化の面でも従業員教育の役割が高まっています。また、AI技術の進歩などにより求められるスキルの変化も大きくなっています。
時代の変化に合わせ一人一人のキャリア形成を行っていくためには、ベテラン世代に対してのリスキリング(学びなおし)の機会を提供する重要性も高まっています。
3. 研修コストの抑制
三つ目は、研修コストを抑えられるという点です。従業員教育は、企業にとって労働生産性の向上、優秀な人材の確保といったメリットがありますが、従業員に対する研修を行うためには研修のコストが必要となります。
人材開発支援助成金を活用しながら研修コストを抑えることで、継続した従業員教育も実施しやすくなります。若年層や非正規社員など、キャリアアップの必要性が高いと考えられる対象者に対する研修に対しては助成率の高いコースを利用することが可能です。
研修の対象者、研修内容といった従業員教育の方針を明確にすることで人材開発支援助成金も活用しやすくなります。
人材開発支援助成金のコース紹介
ここからは、人材開発支援助成金の活用方法について紹介します。
人材開発支援助成金は、会社が従業員に対する研修を行った場合に活用できる助成金ですが、対象者や研修内容により上限や助成率が異なります。また、コースごとの要件も異なります。
従って、人材開発支援助成金を活用するためには、どのようなコースがあるかを知り、どのコースを活用するかを選ぶ必要があります。以下、人材開発支援助成金の4つのコースについて、それぞれのコースのポイントを紹介します。
人材開発支援助成金の主なコースには、以下の4つがあります。
1.人材育成支援コース
人材育成支援コースとは、従業員に対して、①職務に関連した知識・技能を習得させるための訓練、②厚生労働大臣の認定を受けたOJT付きの訓練、③非正規雇用労働者を対象に正社員化を目指すための訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成される制度です。
【助成額・助成率】
※()内は中小企業以外の助成額・助成率
詳細な要件については厚生労働省が公開しているパンフレットをご確認ください。
「人材開発支援助成金(人材育成コース)のご案内」
(出典:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html)
【支給限度額】
1人1職業訓練実施計画届あたりのOFF-JTにかかる経費助成の限度額は、実訓練時間数に応じて下表のとおりになります。
(出典:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html)
2. 教育訓練休暇等付与コース
教育訓練休暇等付与コースとは、従業員に対して有給教育訓練等制度を導入し、従業員が実際に制度を利用し、訓練を受けた場合に助成される制度です。
支給対象となる制度には、以下の3つがあります。
①教育訓練休暇制度
3年間に5日以上の取得が可能な有給の教育訓練休暇を導入し、実際に適用した場合
②長期教育訓練休暇制度
30日以上の長期教育訓練休暇の取得が可能な制度を導入し、実際に適用した場合
③教育訓練短時間勤務等制度
30回以上の所定労働時間の短縮および所定外労働時間の免除が可能な制度を導入し、実際に1回以上適用した場合
【助成額】
(出典:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html)
3. 人への投資促進コース
人への投資促進コースとは、デジタル人材・高度人材を育成する訓練、労働者が自発的に行う訓練、定額制訓練(サブスクリプション型)等を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等が助成される制度です。
対象となる訓練には以下の5つがあります。
①高度デジタル人材訓練・成長分野等人材訓練
高度デジタル人材の育成のための訓練や大学院での訓練
②情報技術分野認定実習併用職業訓練
IT分野未経験者の即戦力化のための訓練
③定額制訓練
サブスクリプション型の研修サービスによる訓練
④自発的職業能力開発訓練
労働者が自発的に受講した訓練費用を負担する場合
⑤長期教育訓練休暇等制度
働きながら訓練を受講するための休暇制度や短時間勤務等制度を導入する場合
【助成額・助成率】
※()内の助成率(額)は、賃金要件または資格等手当要件を満たした場合の率(額)です。
詳細な要件については厚生労働省が公開しているパンフレットをご確認ください。
「人材開発支援助成金(人材育成コース)のご案内」
(出典:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html)
4.事業展開等リスキリング支援コース
事業展開等リスキリング支援コースとは、新規事業の立ち上げなどの事業展開に伴い、新たな分野で必要となる知識及び技能を習得させるための訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成される制度です。
経費助成限度額
1人1訓練当たりのOFF-JTにかかる経費助成の限度額は、実訓練時間数に応じて以下となります。
(出典:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html)
まとめ
人材開発支援助成金を活用することで、研修コストを抑えながら従業員教育を実施することが可能となります。人材開発支助成金にはたくさんのコースがあるため、活用するためにはそれぞれのコースの内容を把握したうえで研修計画を作成することが重要です。
実際の申請にあたっては、制度の変更や地域ごとの提出先により提出書類が異なったりするケースもあるので、始めに提出先に確認をとったうえで申請を進めるようにしましょう。