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現役税理士が気にする相続税申告に当たってのポイント②実践編

私の事務所では、主に相続に関する生前対策のアドバイスや相続税・贈与税の申告の税務代理を行っていますが、相続税の申告を行う際に気を付けているポイントが幾つかあります。そこで、私が普段特に注意している点で読者の皆様にも是非気を付けていただきたい点を

〇相続全般に関する「知識編」

〇相続税の申告実務に関する「実践編」       

の2回に分けて解説していきます。今回はその「実践編」です。

目次

相続税額に大きな影響を及ぼす土地の評価に関して

相続税の申告を行う上で最も注意を要するのは、相続財産の中でも比較的高額となる不動産、特に土地の評価です。

(1)土地の評価は机上調査に加えて現地視察が不可欠!

土地の評価に当たっては、まず路線価図や公図・地積測量図といった図面と固定資産税評価証明書、登記事項証明書(登記簿謄本)等の評価に必要な情報が記載されている公的文書を所管する行政機関から収集して整理します。これを机上調査といいます。

しかし、実際には現地に行って確認してみないと分からないことが多くあります。例えば、固定資産税評価証明書や登記事項証明書では地目が”宅地”となっていても、実際は土地の上に建物はなく空き地や青空駐車場(評価上は”雑種地”)になっていることがあります。また、実際の土地は前面道路との間に大きな高低差がある、あるいは上空に高圧線等の障害物があってその土地に新たに建物を建築する場合に制限や制約があるということも少なくありません。

このように、土地には文書の情報や二次元の図面からでは分からない減価要因がありますので、評価する際は机上調査だけではなく出来る限り現地に赴いて現況を視察・確認するとともに、その土地を所管する市役所の担当窓口(例えば、都市計画課や道路課、建築指導課等)で評価する際に”考慮すべき減価要因がないか”を尋ねるようにしましょう。

(2)これからはマンションの評価にも要注意!

土地の評価に当たって気を付けるべき点としては、「知識編」でも触れたその土地に「小規模宅地等の特例」を適用できるか(適用要件を満たしているか)が代表的ですが、相続財産がマンションであった場合にはその他にも気を付けなければならない点があります。

相続財産がマンションであった場合、その所在地域や敷地面積、容積率が一定要件を満たせばマンション敷地は国税庁の財産評価基本通達における「地積規模の大きな宅地」に該当するため、通常の宅地の評価額に規模格差補正率(0.8未満)を乗じて評価額を一定程度引き下げることができます。このため、マンションの敷地が”地積規模の大きな宅地に該当するのか否か”を確認することが評価する上では大事になります。

【参考】 国税庁・タックスアンサーNo.4609 地積規模の大きな宅地の評価

また、2024(令和6)年1月1日からは相続等によって取得した居住用マンション(区分所有財産)の評価方法が変わります。 従来の評価方法(敷地は自用地としての価額、居室は自用家屋としての価額として両者を合算)とは異なり、今後は築年数や所在階・総階数等を複雑な計算式に当てはめて算定する必要がありますので、相続財産に居住用マンションがある場合はこの点にも気を付けなければなりません。 

【参考】 国税庁・法令解釈通達 居住用の区分所有財産の評価について 

税務調査の対象になり易い相続財産に関して

昨今、相続税の税務調査で最も対象になっているのは”金融資産の申告漏れ(過少申告)”です。そのため、次のような財産については申告に当たって特に注意を払う必要があります。

(1)預貯金口座は被相続人名義のみならず相続人名義も調査対象!

税務署では被相続人の預貯金口座はもちろんのこと、相続人の口座についても過去10年程度の入出金取引は概ね把握しているものと考えて適切に対処するようにしましょう。

①相続開始直前の被相続人の預貯金口座からの引出し

先々の支出に備えて被相続人が亡くなる直前~数か月前に被相続人の預貯金口座からまとまった金額の引出しが行われていることがよくありますが、相続開始時点でその使い残しがあれば残額は被相続人の相続財産(手許現金)として申告しなければなりません。

②被相続人の預貯金口座は過去5年~10年程度遡って入出金を調査

被相続人の預貯金口座については少なくとも過去5年~10年程度遡って取引履歴を取り寄せ、比較的高額な入出金(例えば1回50万円以上)があればその原資と使途を調査します。

その結果、相続人等への生前贈与(加算対象期間内)や他人名義の預貯金口座(いわゆる名義預金)、あるいは貸金庫や自宅に保管されている現金(いわゆるタンス預金)等があればやはり相続財産に含めて申告しなければなりません。

③名義預金は入出金の管理実態で判断

相続人名義の預貯金口座については、その口座開設の経緯や入金原資を拠出したのが誰かに加え、その通帳・キャッシュカードや印鑑を日常的に誰が管理・使用していたかがポイントになります。これらがすべて被相続人であれば名義預金として相続財産に含めて申告する必要がありますが、相続人であれば相続財産に含める必要はありません。

(2)名義株式や名義保険にも要注意!

他人名義の財産は預貯金に限らず上場株式等の有価証券についても同様ですので、必要に応じて有価証券についても過去5年~10年程度遡って取引履歴を取り寄せ、高額な取引についてはその原資・顛末を調査します。

また、生命保険契約についても注意が必要です。契約者は相続人等であっても保険料の負担者が被相続人である場合は被保険者や保険金受取人の関係によって本来の相続財産(又はみなし相続財産)になります。株式等の売買取引や一定金額以上の生命保険金の支払についても税務署は金融機関からの支払調書を通じて把握していますので、相続財産に含めるべきものが漏れないように注意しましょう。

相続税申告書の添付書類に関して

相続税の申告書に添付して提出することが法令で定められている書類は『被相続人の全ての相続人を明らかにする戸籍謄本の写し』などごく限られていますが、税務署から申告書と合わせて提出することが要請されている書類も幾つかあります。例えば、相続財産の分割等に関するものとしては『遺言書又は遺産分割協議書の写し』、財産の評価に関するものとしては『土地及び土地の上に存する権利の評価明細書』や『上場株式の評価明細書』といった各種評価明細書です。

これらはいずれも提出された申告書の内容が適正なものであるかどうかを税務署が判断するために最低限必要になるものですので、申告する際は添付しておいた方が良いでしょう。加えて、税理士が関与して申告書を作成する場合は、相続税法の書面添付制度に基づく『添付書面』を税理士に作成・添付してもらうことをお勧めします。

『添付書面』は申告に当たって税理士がどのような調査を行い、どのような事実と法令に基づいて相続財産・債務を評価・計上したのかを詳細に記したものになりますので、要領よく纏まっていれば税務署から簡易な問い合わせや税務調査を受けるリスクをかなり減らすことができます。

また、相続人等が自ら申告書を作成する場合は、その代わりに国税庁が公表している相続税の申告のためのチェックシートに沿って該当する箇所を記入して申告書に添付すると良いでしょう。

【参考】 国税庁 相続税の申告のためのチェックシート(令和5年1月以降提出用)

まとめ

相続税の申告に際して気を付けるべきポイントを「知識編」と「実践編」の2回に分けて解説しましたが、特に今回解説したような相続財産の中に評価がややこしい不動産がある、あるいは原資や使途の分からない金融資産があって相応の相続税額が生じるような場合は、注意が必要です。また、不明な点についてはBeyond Researchの書籍で調べてみるのもいいでしょう。以下におすすめの書籍を記載しますので気になった方は一度ご覧になってみてください。

税務調査官の着眼力Ⅱ間違いだらけの相続税対策

もめないための相続心理学

相談対応相続Q&A―法律・税金・保険・ライフプランニング―

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