ウェルビーイング経営は、企業の生産性向上を主な目的として、従業員の幸福度に注目する経営手法です。自社の経営状態を改善したいとお考えの企業経営者や現場の管理者クラスの方にとって、押さえておきたい手法の1つです。
今回は、ウェルビーイング経営の概要や健康経営との違いを解説した上で、企業にとってのメリット・デメリットを具体的に解説します。ウェルビーイング経営の実践ノウハウも具体的に紹介しますので、ぜひご覧ください。
ウェルビーイング経営とは従業員の幸福に注目する経営手法
ウェルビーイング経営に関する基礎知識を順番に身につけていきましょう。ここでは、ウェルビーイングの意味やウェルビーイング経営が話題になる背景について解説します。
ウェルビーイングとは
ウェルビーイングとは、well(よい)とbeing(状態)からなる言葉で、「肉体的、精神的、社会的にすべてが満たされた状態であること」を示す概念です。はじめてウェルビーイングが示されたのは、1948年4月に発行された世界保健機関憲章の前文と考えられています。
参考:公益財団法人 日本WHO協会|世界保健機関憲章前文 (日本WHO協会仮訳)
肉体的、精神的、社会的にすべてが満たされている状態は、幸福な状態といえます。つまり、ウェルビーイング経営とは、従業員一人ひとりの幸福に注目する経営手法なのです。
従業員一人ひとりが健康で安心して働ける職場環境を構築できれば、従業員は自身のポテンシャルを生かして業務に従事できるようになります。中には、やりがいや充実感を得ながら生き生きと働く人も出てくるでしょう。
従業員の会社や仕事に対する満足度が向上すれば、企業へのエンゲージメント(愛着や誇りなど)も高まるはずです。そうした従業員が増えた結果、企業の生産性が向上して、最終的に業績アップに結びつけることがウェルビーイング経営の大きな目的となります。
ウェルビーイング経営が話題になる背景
ウェルビーイング経営が話題になる背景に、日本の社会状況の変化が挙げられます。
現在の日本は人口減少局面を迎えており、特に生産年齢人口※は1995年の8,716万人をピークに減少し続けています。2060年には、5000万人を下回るという推計結果もあり、労働力の不足などが懸念されているのです。
今後、限られた労働力を活用して企業の生産性を高めるためには、従業員一人ひとりの生産性の向上が欠かせません。
また、社会状況の変化にともなって、労働に対する価値観や働き方も変化を迎えています。給与や待遇よりも、家族との時間や生きがいを重視する人もいるのです。
このような背景から、一人ひとりの従業員の価値観や考え方を尊重して企業と従業員の双方にメリットをもたらす経営手法として、ウェルビーイング経営が注目を集めているのです。
健康経営との違い
健康経営とは、従業員の健康に注目した経営手法です。企業が従業員の健康管理に投資することで、業務効率の改善を実現して、最終的に企業の生産性を向上させます。従業員の健康管理も企業の経営課題と考える点が大きな特徴です。
一方の、ウェルビーイング経営は、従業員の健康管理だけでなく、やりがいや充実度にも注意をはらいます。やりがいや充実度を高めるための施策を行うことで、従業員の幸福度を高めて、最終的に企業の生産性向上をねらうわけです。
両者は、企業の生産性を高めるという目的は一致していますが、目標を達成するためのプロセスが異なります。
ウェルビーイング経営に企業が取り組むメリット・デメリット
ウェルビーイング経営には、どのようなメリット・デメリットが存在するのでしょうか。それぞれ具体的に解説します。
ウェルビーイング経営のメリット
ウェルビーイング経営の大きなメリットは、仕事や職場にやりがいや充実を感じる従業員を増やせる点です。
仕事や職場にやりがいや充実を感じる従業員が増えれば、生産性向上や品質アップを期待できます。また、従業員の幸福度が向上すれば、離職率の低下や定着率の上昇にもつながるでしょう。
従業員から高い評価を獲得すれば、企業のブランドイメージ向上も期待できます。ブランドイメージの向上は、企業のリクルート活動においても採用コストの削減などのメリットをもたらすでしょう。
ウェルビーイング経営のデメリット
ウェルビーイング経営のデメリットは、長期的な取り組みが必要になる点です。従業員の幸福度を高める施策を実施しても、売り上げや利益率の向上、離職率の低下といった成果が出るまでには一定の時間がかかるでしょう。
また、従業員の幸福度を高める施策に投資した結果、短期的に売り上げが下がる可能性もあります。
ウェルビーイング経営の具体的な取り組み方法
ウェルビーイング経営の具体的な取り組み方について具体的に解説します。
自社の評価
はじめに従業員の幸福度を確かめて、自社の現状を客観的に把握しましょう。調査方法は、従業員一人ひとりに質問するアンケート調査が有効です。
アンケート調査では、調査シートを自分たちで用意する方法とアンケートツールを用いる方法があります。調査シートを自分たちで用意すると労力や時間がかかるため、対象者が多いときは、アンケートツールを活用しましょう。
以下に無料で使えるアンケートツールを記載しますので、参考にしてみてください。
調査方式は無記名アンケートがおすすめです。記名ありの場合、「回答内容が、マイナス査定につながるかも…」といった不安を覚える方がいるかもしれません。無記名アンケートにすると従業員の心理的ハードルを下げられます。
従業員との対話と施策の立案
ウェルビーイング経営では、従業員との対話も重要な項目です。なぜなら、対話によって従業員一人ひとりの要望を確認できるため、効率的に従業員の幸福度を高められるからです。
一人ひとりの要望に対応できなくても、自社の経営にどのような施策が必要かを検討するために、対話が役立つでしょう。以下、具体的な内容を紹介します。
労働環境の改善
労働環境を改善することで、個々の従業員の心理的・身体的負担を軽減できます。万が一、業務内容と労働時間のバランスが悪い場合は、個々の従業員のスキルや経験にあわせて、適切な業務を割り振りましょう。ツールを導入して、業務効率改善を目指すやり方も効果的です。
福利厚生の導入や改善
福利厚生とは、従業員に支払う賃金や賞与以外の報酬を指します。その主な目的は、従業員が心地よく働ける環境をつくって、経済的あるいは健康の維持や向上を図ることです。
健康保険や雇用保険といった法定福利厚生の導入はもちろんのこと、法定外福利厚生の改善にも注目しましょう。法定外福利厚生とは、企業が自由に導入できる福利厚生の仕組みのこと。
以下の項目を参考に、自社で導入・改善できる項目がないか検討してみましょう。
- 家賃や住宅ローンの補助
- 定期健診や人間ドックの実施
- スポーツ施設の利用費補助など
- 育児・介護休暇
- 資格補助制度
- 社内食堂やカフェの設置
- 記念休暇、リフレッシュ休暇など
従業員満足度の調査
従業員満足度とは、仕事や職場にどのくらい満足しているかを示す指標のことです。ウェルビーイング施策の効果を確かめるためには、従業員満足度も指標の1つとなります。
すべての従業員を調査する際は、前述のアンケート調査が有効です。従業員一人ひとりと会話の機会をもちたい場合は、期間を区切ったり部署ごとに調査を実施したりして効率的に調査を進めましょう。
ウェルビーイング施策の実施と再評価
ウェルビーイング経営は、長期的な視野が必要な経営手法です。各施策の実施後は、再評価と改善のサイクルを繰り返して、徐々に従業員の幸福度を高めていきましょう。
アンケート調査や従業員との対話を定期的に行い、施策の評価をモニタリングした上で、適切な施策を検討・実施しましょう。
なお、ウェルビーイングには、主観的ウェルビーイングと客観的ウェルビーイングの2つがあります。
主観的ウェルビーイング | 客観的ウェルビーイング |
---|---|
自分の認識や感覚によって感じられるポジティブな感情。仕事への充実感など | 客観的な数字に基づいた指標。平均寿命や生涯賃金、失業率など |
ウェルビーイング経営では、従業員の幸福度に注目するため、主観的ウェルビーイングを高めるような施策に注力しましょう。
ウェルビーイングの5つの要素とは
ウェルビーイング経営に役立つ5つの要素について解説します。
米国ペンシルベニア大学のマーティン・セリグマン博士は、ウェルビーイングに関するPERMA(パーマ)モデルを発表しました。PERMAモデルとは、幸福度を維持し続けるために必要な5つの要素の頭文字をとったもの。5つの要素とは下記の内容です。
要素の名称 | 意味 | 具体例や効果 |
---|---|---|
Positive Emotion | ポジティブな(前向きな)感情 | 嬉しい、楽しい、面白い、感謝といった感情 |
Engagement | 物ごとに夢中になること | 集中力、没入感 |
Relationship | 良好な人間関係 | 仕事仲間との人間関係 |
Meaning | 人生の意味や意義 | 人生について「何に価値を感じるか」「何を優先するか」 |
Accomplishment | 達成感 | プロジェクトの完遂、資格の取得、会社での昇進など |
PERMAモデルを自社に適切なウェルビーイング経営の参考にしてみましょう。
まとめ
従業員の幸福度を高める施策を行うことで、従業員は「安心して仕事に取り組める」「心身を適切に管理しながら仕事に取り組める」といったメリットを受けられます。
従業員が安心して仕事に取り組める環境は、一人ひとりの生産性向上を実現するでしょう。ウェルビーイング経営が成功した結果、企業全体の生産性が高まるだけでなく、雇用側と被雇用側が互恵関係を築けるのです。
自社の経営状態に問題を感じているなら、この機会にウェルビーイング経営の導入を検討してみてはいかがでしょうか。