2023年5月2日に公表された、企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」及び「リースに関する会計基準の適用指針(案)」について、借手の視点から、公開草案を読むにあたって理解のポイントとなりそうな事項を国際的会計基準の考え方を含めて出来る限り平易に解説します。
前編では、リース会計基準改正の争点や使用権モデルを導入したリース会計基準の実務上の課題(リース期間の見積もり)について解説しました。
後編では、費用配分の基本的な考え方やリースの要素を含むサービス契約ならびにセール・アンド・リースバックについて解説します。
借手における費用配分の基本的な考え方
IFRS第16号と米国の会計基準は、両者共に使用権モデルにより、原則としてすべてのリースを資産計上しますが、その費用配分方法は異なっています。
リース会計基準(案)BC34項で以下のように紹介しています。
借手のリースの費用配分の方法として、IFRS 第16号では、すべてのリースを借手に対する金融の提供と捉え使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る金利費用を別個に認識する単一の会計処理モデル(以下「単一の会計処理モデル」という。)が採用されている。
これに対して、Topic 842 では、従前と同様にファイナンス・リース(減価償却費と金利費用を別個に認識する。)とオペレーティング・リース(通常、均等な単一のリース費用を認識する。)に区分する 2 区分の会計処理モデル(以下「2 区分の会計処理モデル」という。)が採用されている。
若干わかりにくい文章ですが、要するに、IFRS第16号では、オペレーティング・リースを含むすべてのリースを従前のファイナンスと同様に取り扱い、減価償却費と金利費用を別個に認識して費用配分します。
この結果、リース期間の初期により多くの費用が配分されることになります。
それに対して米国の会計基準では、オペレーティング・リースとファイナンス・リースで異なる費用配分方法を採用しているということです。
ファイナンス・リースはIFRS第16号と同じ処理ですが、オペレーティング・リースでは、減価償却費と利息費用の合計が毎期定額となるように計算し、表示も償却費と金利費用を区分せず、合計額を「リース費用」として計上します。米国の会計基準における費用配分をイメージ図で示す下記のようになります。
我が国のリース会計基準(案)では、両者を比較衡量のうえで、IFRSとのコンバージェンスの経緯、財務諸表作成者の利便性、財務諸表利用者のニーズ等を重視した結果、IFRS第16号の単一の会計処理モデルを採用したとしています。
リースの要素を含むサービス契約
会計基準(案)第23項では、「契約の当事者は、当該契約がリースを含むか否かを判断する」としています。
さらに同第26項で「リースを含む契約について、原則として、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けて会計処理を行う」としています。
即ち、リースの定義が従来の定義より拡大されたと考えて良いと思われます。
これらの規定に従えば、従来はサービス契約と捉えられていた契約、例えば電力供給契約のような契約においても、発電設備である太陽光パネル等について、資産が特定されその使用方法がリースの定義を満たす場合、リース要素を分離して借手において資産計上が求められる可能性があります。
また、最近は“サブスク”という言葉も良く耳にしますが、車のように特定の資産の使用権が利用者に移転する契約にはリース会計が適用されると思われます。
従って、リースしている営業車などは資産計上される可能性があります。
ただ、サブスクには車両の使用権だけでなく、例えばメンテナンスや車検、保険料や税金などいろいろな付帯サービスが付いています。
その場合に、サブスク料金をどのようにリース要素や他の各要素に配分するかという論点が生じ、配分された対価をそれぞれどのように会計処理するのか、高度な会計判断が求められます。
また、高額な月額料金を払えば、いつでも無償で解約できる契約もあり、そのような場合のリース期間はどうするのかは非常に難しい判断になると思われます。
セール・アンド・リースバックの売却益は計上できるか
従来、IFRSにおいてもセール・アンド・リースバックにおいて、リースバックがオペレーティング・リースであれば、当初のセール時に売却益の計上が可能で、多くの会社で本社ビルなどを使ったファイナンス兼一時的な益出し手法として利用されました。
ただし、リースバックがファイナンス・リースと判定されると売却益は全額が繰延処理され、一時的な利益は認識できませんでした。
IFRS第 16号の適用後は、リースバックが使用権としてオンバランスされることになり、それに伴って売却益のうち使用権資産に対応する部分は繰延べられ、リース期間にわたって認識されることになりました。
これはセール・アンド・リースバックを一体として見た時に、経済的実態として売却されたのはリース終了後に貸手に残る残存価値部分のみであるという考え方と言うことができます。
一方、ほぼ同時期に類似の使用権モデルを採用した米国会計基準では、セール・アンド・リースバック時の売却益を全額即時認識することを認めています。
ただし、リースバックがファイナンス・リースの場合には、当初のセールそのものを認めない規定を採用し、セール・アンド・リースバック取引全体がファイナンス取引として会計処理されます。
リースバックがオペレーティングであれば売却益を全額即時認識することを認めるのは、セール・アンド・オペレーティング・リースバックの場合のセールが収益認識基準の規定を満たす収益取引であることを重視し、セールとリースバックをある意味別々に捉える見方をしているということです。
ただし、リースバックがオペレーティングなのかファイナンスなのかの実態判断は依然として実務上の課題となるでしょう。
リース会計基準適用指針(案)BC81項では、以下のようにIFRSと米国の会計基準を比較衡量した結果、米国の会計基準を参考として会計処理を定めたと記載しています。
本適用指針 BC79項及び前項に記載した IFRS 第 16 号とTopic 842 を比較衡量した結 果、本適用指針においては、Topic 842 における定めを参考に、リースバックにより、売手である借手が資産からもたらされる経済的利益のほとんどすべてを享受することができ、かつ、資産の使用に伴って生じるコストのほとんどすべてを負担することとなる場合、資産の譲渡は売却に該当しないと判断するものとした(本適用指針第 51 項(1) ②参照)。
また、セール・アンド・リースバック取引について、売手である借手による資産の譲渡が収益認識会計基準などの他の会計基準等により、一時点で損益を認識する売却に該当すると判断される場合、売手である借手は、当該資産の譲渡について収益認識会計基準などの他の会計基準等に従い当該損益を認識し、リースバックについて会計基準及び本適用指針に従い借手の会計処理を行うこととした。
このように結論した主な理由として、収益認識基準を満たした取引であることを重視することと、IFRS第16号のように一部の利益を繰延処理することは、計算が複雑になるとの実務上の簡便性を考慮したと記載しています。
なお、借手については、ファイナンス・リース、オペレーティング・リースの区別がなくなったものの、セール・アンド・リースバック取引における売手である借手は、その全体をファイナンス取引と判断する指針として、貸手によるリース分類の規定を用いて、いわゆる「フルペイアウトのリースバック(※)」に該当するかを判断しなければならず、リース分類と無縁ではありません。
おわりに
以上、リース会計基準(案)、リース会計基準適用指針(案)を理解するためのポイントをいくつか記載しました。公開草案を読む上での一助となれば幸いです。