「税務書籍の読み放題サービス」無料トライアル提供中! 詳しくはこちら

起業ストーリーで学ぶ税務・会計 後編

目次

1.はじめに

本書の前半では、主に、会社の活動を会計情報を通じて理解することに焦点が当てられていました。

会社が資金を調達すれば、会社の財産(資産)は増えることになります。この財産を管理するために、会計処理を行って、会社が今どれくらいの財産を保有しているのか、そして、何にお金を使っているのか(投資しているのか)を明らかにするのが会計の役割であることを説明しました。

本書の後半では、会計情報を経営戦略に活用するプロセスが、アイスタイルの事例をもとに描かれています。会社は戦略に基づいて一貫した経済活動を行わなければなりません。

どんなに優れた商品やサービスを提供している企業でも、戦略がなければ従業員は何をすれば良いかわからなくなってしまいます。そこでも役立てられているのが会計であることを本書は示しています。

アイスタイルが上場を目指すプロセスを事例としながら、会計情報に基づいて現在の会社の状況を冷静に把握し、戦略を練るプロセスが活き活きと描かれています。以下では、本書の後半である第3部・第4部で描かれていることを丁寧に読み解いていきます。

著 者 : 川島健司著
出版社 : 中央経済社
出版年 : 2021年

2.財務諸表を読解する〜アイスタイルの上場期: 2010年~2014年〜

会社の活動が軌道に乗り、事業規模が拡大していくにつれて、より多くの資金が必要となります。

ここで、金融機関から融資を受けることももちろん可能ですが、株式会社の場合、新しく株式を発行して、一般の投資家に引き受けてもらい、資金を調達するという方法があります。

一般の投資家に株式を引き受けてもらうためには、株式を取引可能にしなければなりません。一般の投資家に株式を取引可能なものとするためには、株式を取引所に上場する必要があります。実際、アイスタイルも2012年に東京証券取引所マザーズ市場への上場に挑んでいます(p.191)。

株式を上場するということは、一般の投資家に株式を購入してもらうことを意味します。そのため、会社が一般の投資家にとって魅力的でなければなりません。なぜなら、魅力的でなければ、誰もアイスタイルの株式を購入してはくれないからです。

ここで、会社が魅力的であるということは、一体どのようなことを意味するのでしょうか?

投資家が会社に投資をする理由は、その会社に投資をすることで会社から配当を得ることができる(これはインカムゲインと呼ばれます)、もしくは、その会社の株式を購入して、後日購入時よりも高い値段で売却することができる(これはキャピタルゲインと呼ばれます)と考えるからです。つまり、投資家にとって会社が魅力的であるためには、配当を多くするか、株価を高くする必要があることになります。

この場合、会社を魅力的にするためにはどうすれば良いかを考えなければならないということがわかります。会社を魅力的にするためには、会社の現状をしっかりと分析する必要があるというわけです。会計の世界では、会社の現状を分析することを財務諸表分析と呼びます。貸借対照表や損益計算書と呼ばれる財務諸表を分析して、会社の課題を炙り出すのです。

本書では、財務諸表の基本的な分析手法が詳しく紹介されています。他の財務諸表分析の書籍とは違って、実際にアイスタイルの上場期における財務諸表を分析していることから、上場準備を行っている企業が何を考えているのかを、読者は追体験することができます。

財務諸表分析を学ぶうえで重要なことは、難しい計算式を理解することではありません。むしろ、その計算式が、どのようなときに活用できるのかを正しく理解することにあります。

本書でも、現在も株式会社アイスタイルの取締役兼CFO(Chief financial Officer: 最高財務責任者)を務める菅原敬氏は次のように述べています。

会計は経営の実態を「可視化」するツールです。会社がどのような状況にあるかを理解し、意思決定していくことに不可欠です。会計を知らないと、計画が作れないし、それを社内外に伝えることもできません。

会社が取り組んでいるプロジェクトがどのくらい儲かっているか、どのようなスピードで収益が生まれているか、一人当たりの収益性はどれくらいか、リスクの大きさはどのくらいか、会計が可視化してくれます。さらに便利なことは、数字は海外でも言語に関係なく通じることですね。

企業ストーリーで学ぶ会計 p.207

3.会社の価値を評価する〜アイスタイルの挑戦期: 2015年~2019年〜

上場をすれば、会社は一般株主から資金を提供してもらうことになります。そこで調達した資金を活用して、更なる成長を目指さなければなりません。実際、株式上場してから3年後、アイスタイルは、日本の上場会社のなかで年間の株価上昇率1位を記録するなど、一般投資家からも大きな注目を集めていました(p.277)。

しかし、一般投資家から期待されているということは、それだけ大きな成長を望まれているということの裏返しでもあります。その期待に応えられなければ、投資家たちは株を売却してしまうかもしれません。したがって、上場後は、会社をさらに発展させるための取り組みを行う必要があります。

実際、アイスタイルは、2017年に従来から提供していた「@コスメ」というサービスを強化して、「Beauty Platform」を始動させています(p.283)。このプラットフォームは、化粧品を使う生活者だけではなく、美容に関わる全ての人にとって必要となる情報をITによって結びつけるための共通基盤となるものです。

コスメを販売する小売店、小売店にコスメを卸す卸売業者をはじめ、食品、飲料、エステサロン、ヘアサロン、ヘルスケア、エイジングケアなど、美容業界の求人や教育などに携わる人々がプラットフォーム上で自由に結びつき、情報を発信・共有できるようにしました(p.283)。

このように、様々な挑戦を行ってきたアイスタイルですが、その会社の価値は一体いくらになるのでしょうか?投資家からみたときに、その会社の魅力は、一体どのように測定することができるのでしょうか?本書では、最終部である第4部において、会社の価値評価の方法の問題に取り組んでいます。具体的には、資本コストの推定方法が説明されています。

すでに説明したように、会社が資金を調達する方法は大きく分けて2つあります。一つは借りる方法で、これは「借り入れ」や「負債」とも呼ばれます。もう一つは、株式を売って人々からお金を集める方法で、これは「資本」や「自己資本」とも呼ばれます。

借り入れには利息という費用(コスト)がかかり、株式には配当という費用(コスト)がかかります。それぞれがどれくらいかかるかを考えてみましょう。これが資本コストを「推計」するということの本質的な意味です。

1.借り入れのコストを考える

借り入れのコストは、一般的に「利息」です。これは借りたお金に対して支払わなければならない金額のことです。たとえば、10%の利息で1000円を借りたら、その利息は100円になります。

2.株式のコストを考える

株式のコストは「配当」です。これは株を持っている人々に対して支払わなければならない利益の一部です。たとえば、あなたの会社が1000円の利益を上げて、その10%を株主に配ると決めたら、配当は100円になります。

3.これらのコストを合計する

これらの借り入れのコストと株式のコストを合計すると、会社全体の資本コストがわかります。

4.資本コスト率を計算する

全体の資本コストを会社が手に入れた全資本(借入金額+株式)で割ると、資本コスト率が出ます。これは、会社が1円を手に入れるのにどれだけコストがかかるかを示す指標で、高ければ高いほどビジネスが行いにくいということを意味します。

たとえば、借入金額が1000円で、その利息が100円、株式が1000円でその配当が100円だったら、全資本コストは200円、全資本は2000円になります。なので、資本コスト率は200(全資本コスト) ÷ 2000(全資本) = 0.1 または 10%になります。

この資本コスト率を見て、新たなビジネスプロジェクトを始めるときには、そのプロジェクトで得られる利益がこのコスト率以上であることを確認するわけです。これが資本コストの推計の基本的な考え方となります。

アイスタイルの挑戦期である2015年~2019年においては、投資家たちは資本コストを推計することによって、アイスタイルに投資価値があるかどうかを判断していました。

アイスタイルが新しく始めたプロジェクトが、本当に投資する価値があるかどうかが判断されていたのです。本書では、この点を創業20年目の財務諸表(2019年6月期)と証券市場データを用いて明らかにしています。

4.おわりに

アイスタイルは2010年から2014年の上場期間に、資金を調達し、魅力的な企業となるために、投資家が求める配当や株価上昇(インカムゲインとキャピタルゲイン)を提供することを目指しました。これを達成するためには、会社の現状を詳細に分析することが必要でした。

この分析は財務諸表を通じて行われ、アイスタイルのCFOである菅原敬氏はこれを経営の状況を「可視化」する重要なツールと説明しています。この分析は、会社の現状、プロジェクトの収益性、リスクを理解し、適切な意思決定をするために必要なものです。

2015年から2019年の挑戦期に入ると、アイスタイルは株式上場後の更なる成長を追求し、投資家からの期待に応えるため、「@コスメ」のサービスを強化し、「Beauty Platform」を立ち上げました。このプラットフォームは、美容に関する情報を全ての人々と共有できる共通基盤として機能しました。

しかし、その新プロジェクトの投資価値は、資本コスト率によって評価されます。資本コスト率は、借入金と株式からの資金調達それぞれのコストを合計し、それを会社の全資本(借入+株式)で割ったもので、ビジネスの成立に重要な要素です。

新プロジェクトがこの資本コスト率を上回る利益を出すことができるかどうかが、その投資価値を決定する根拠となったのです。これにより、アイスタイルは新プロジェクトが投資に値するかどうかを投資家に示すことができました。

このように、アイスタイルは、会計を使いながらステイクホルダーである株主や金融機関に対して、会社の運営方針や戦略について十分に説明をしてきたからこそ成功してきました。会計によって会社の状態が可視化されているからこそ、ステイクホルダーは、会社の運営方針や戦略に納得したうえで、会社の成功を見守ることができました。

これは従業員であっても、同様です。会社が目指すべき方向性が定まっていて、それが可視化されていれば、従業員も何をしなければならないかが明確になります。

本書の後半では、こうした会計の戦略的な活用方法を丁寧に解説してくれています。簿記という記帳の技術だけで会計の学習を終えてしまう人も少なくありません。

しかし、本来、会計とは、経済プロセスを写し出す鏡のようなものであり、その鏡をみて、経営者は自身の会社について知り、現状を踏まえた戦略立案ができるようになるのです。本書は、そのことを丁寧に教えてくれる良書となっています。

本書ではコロナ前の2019年6月期までのケースを取り上げていますが、株式会社アイスタイルはその後、コロナ禍に入り大変な経営危機に陥りました。2022年末、本書のケースに続けるかたちで、コロナ禍の影響について創業者の吉松徹郎氏に語っていただく講演会が実施されました。本書の続きが気になる方は是非ご視聴ください。

https://www.youtube.com/watch?v=INZAduDJlZM
あわせて読みたい
起業ストーリーで学ぶ税務・会計 前編 Beyond Researchおすすめ書籍「起業ストーリーで学ぶ会計」のレビュー記事、前編となります。 本書の前半の第1部・第2部では、財務諸表の作成方法について学ぶことができ、後半の第3部・第4部では、作成された財務諸表を分析したうえで、会社の戦略を練る方法を学ぶことができます。 本記事では、前半の第1部・第2部の内容を詳しく解説していきます。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

この記事情報をSNSでシェアしませんか?
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

税務電子書籍の読み放題サービスの無料トライアル募集中!!

目次