社会人になるとスキルアップのために資格取得を目指す方が多数いると思います。経済産業省からも「リスキリング」が提唱されているように、新たな分野や職務で働くためには新しい知識やスキルを得るための勉強が必要です。
今回の記事は、働きながら税理士試験に合格をした体験談となります。税理士試験というのは、難関国家資格のひとつです。働きながら、合格をするというのは、ただ勉強をするだけではなく、意志の強さや勉強方法のいろいろな工夫が必要となります。
当記事の私の体験談が皆様のリスキリングの参考になれば幸いです。
自己紹介と税理士を目指したきっかけ
まずは、私の簡単な自己紹介となぜ税理士を目指したのか?きっかけなどを記載していきます。
自己紹介
私は2023年現在で39歳です。30歳から受験をはじめ、8回目の2022年に税理士試験に合格し、現在は開業税理士です。
経歴は、上場企業で11年半ほど経理や事業部の管理部門として働いていました。税理士事務所や会計事務所での就業経験はありませんが、企業で働いて得た知見を活かし、税理士として働いています。
なぜ税理士になろうと思ったのか
経理の仕事をしていくうちにキャリアに行き詰まりを感じました。経理の仕事は、最初は覚えることが多かったのですが、2~3年仕事をしていると仕事で覚えることも少なくなり、毎月毎年同じ業務の繰り返しとなっていました。
会社員として経理の仕事を続けていくこともひとつの道でしたが、こういった仕事をしているのであれば、目指すべき頂点は公認会計士か税理士だと思いました。税理士は5科目合格制度で地道に勉強をすれば合格を目指せると考え、税理士試験合格を目指すことにしました。それが30歳の頃です。
30歳から試験に合格した38歳までの間に子供が生まれるなどの家庭環境の変化もありましたが、働きながらでも合格をすることはできました。
合格科目は「簿記論」「財務諸表論」「消費税法」「所得税法」「住民税」です。
働きながら税理士試験に合格するための勉強方法や工夫
税理士試験は、仕事をやめて勉強に集中できる環境でも、合格することは困難です。働きながらとなるとさらにハードルが上がります。しかし、さまざまな工夫で合格することはできます。
1日の勉強時間とスケジュール
働きながら税理士試験に合格するために、まずやるべきことは、試験本番までのスケジュールを立てることです。具体的には、1日何時間勉強をするのか、そのために私生活はどういったスケジュールで行動するかを決めます。決めたからには、そのとおりに必ず実行をすることが必要です。
スケジュールを決めたら、Excelなどで実際のスケジュール表を作成します。印刷して、常に目に入る場所においておきます。
1日の勉強時間は、働きながらでも必ず平日は、1日2時間は試験勉強をしていました。また、休みの日であれば、1日5時間は勉強をしていました。
スケジュールを決めるにあたって、何を重視したかというと、「毎日最低2時間は勉強をすること」「週単位で何をやるか目標を決めてからやること」の2点です。この2点さえこなしていけば、働いていてもそうでなくても、税理士試験に合格する力が身についていきます。
勉強するための工夫
働きながら税理士試験合格を目指すとなると、1年で5科目すべて合格をすることは非常に困難です。そのため、私は税理士試験の特性である科目合格を目指しました。
税理士試験では合格した科目に有効期限がないため、5科目を積み重ねれば税理士試験に合格できます。
科目合格では科目選択が重要となります。
簿記論・財務諸表論は、必須科目ですが、試験範囲が重複する箇所(計算問題)が多々あるため、簿記論と財務諸表論は同時に勉強をして、1年で2科目合格も狙えます。
税法に関しては、まず、消費税法を選択することをおすすめします。その理由は、消費税法は個人でも法人でも実務で生かせること、馴染みの深い税科目であること、受験者数も多いので、合格者数も多くなり、比較的合格しやすいことなどがあげられます。
所得税法・法人税法は選択必修科目ですが、私は所得税法を選択しました。その理由は、独立後を想定した場合、所得税法を知っておく必要があったためです。
法人税法は勤務先の実務である程度わかっていたため、法人税法を選択した方が試験合格という過程では、近道だったかもしれません。実際に、所得税法は合格するまでに3年を要しました。
しかし、そのおかげで、所得税法に関しては自信を持つことができました。また、所得税法は住民税と試験の大部分の範囲が重複しているので、5科目目の住民税は、住民税独自の計算方法(ふるさと納税や所得控除額の違い)を理解すれば、合格圏内にすぐに達することができました。
モチベーションを維持する方法
働きながら税理士試験を合格するにあたって、モチベーションを維持することは、非常に重要です。まず、税理士試験は1年に1度しかありません。つまり、不合格の場合、再挑戦までの1年間モチベーションを維持しなければなりません。
私がモチベーションを維持できたのは、絶対に最後までやり遂げたいという強い意志があったからだと思います。
「大人になってからでも夢を叶えることができる」ということを税理士試験の合格を通じて体験したかった。その次のステージに立ちたい、という強い思いがあったからこそ、モチベーションを保ち続けられたのだと思います。
また、ほどほどに休むこと、好きなことにも時間を使うことが重要です。実際に私は、土日は一日中勉強をせずに、午前中や隙間時間だけに勉強をし、趣味などの時間も設けていました。土日に好きなことをするためにも、働いていても平日に勉強の貯金を作ることが大切です。
試験を受けた過去を振り返って、思うこと
働きながら税理士試験に合格をしましたが、「うまくできた」「あのときはミスをした」「大変だった」と振り返って思うことがいろいろあります。その点についてまとめていきます。
うまくいったこと
働きながら税理士試験を勉強していくうえで、うまくいったことは、勉強方法でも記載しましたが、時間を確保し、スケジュールどおりに実行をしていったことです。
当時通っていた予備校の先生も「カリキュラムどおりにこなしていけば、誰でも合格圏内に入れる」と言っていましたので、自分でスケジュールを立て、計画どおりに実行をしていきました。
また、段々と勉強をしていないと落ち着かない、勉強をしたいという気持ちになり、勉強が苦にならなかったこともよかったと思います。
失敗したこと
失敗をしたことは、本試験での大きなミスや小さなミス、数えればきりがないほどあります。
例えば、消費税法であれば、簡易課税の判定を間違えたこと(この時点で後の問題はすべて不正解となり、不合格が決定する)や所得税法での時間配分ミスにより、理論は完璧に解けたが、計算の時間が足りなくて不合格になったこと、住民税であれば、計算は満点を目指さなければ合格は難しいと思いつつも、記載漏れなどがあったことです。
しかしながら、失敗をすることは、後の成功につながります。すべての科目に共通していえることですが、失敗をした翌年は必ず合格をしています。失敗をバネにすることが大切です。
大変だったこと
働きながら税理士試験を勉強していくうえで、大変だったことは、税理士試験は1年に1回しかないというプレッシャーに打ち勝つことでした。不合格の場合は、1年間また同じ勉強をしなければならないことや2020年から2022年の受験はコロナ禍でしたので、体調管理にも気をつけました。
また、試験時間は1科目2時間でしたので、1年間の勉強の成果をたった2時間で表現しないといけないということもプレッシャーに感じました。
子供が産まれるなどの環境の変化もありました。妻も仕事をしていたので、家事・育児は分担して行いました。重要なのは、押し付けあうことではなく、協力をすることです。
土日の休みであれば、1日は私が子供を見て、1日は妻が子供を見るというスケジュールをあらかじめ組みます。そうすれば、1日自分の時間を持てるため、勉強の時間も持つことができます。
また、幸い、子供は夜泣き等がほとんどなく、乳児の頃から親孝行をしてくれたのだと感じました。
現在働きながら合格を目指している方に伝えたいこと
働きながら税理士試験に合格をすることは、はっきりいって難しいと思います。実際に、働きながら税理士試験に合格をした私は、そう思います。
しかし、税理士試験に合格をしたい、税理士になりたいという強い想いがあれば、無理ではないと思います。実際に私は、試験は難しいとは思っても、嫌でやめようと思ったことはありませんでした。
それは、夢を叶えたいという想いがありましたし、目標を失いたくないという想いもあったからだと思います。
合格後は、自分の選択肢が広がります。一般的には、年齢を重ねると転職などの選択肢は狭くなっていくものだと思います。
しかし、税理士という資格を持っていれば、「独立」という道もあれば「税理士法人等で働く」という道もあります。事業会社に転職する際も大きな武器になると思います。
現在の目標、将来のビジョン
現在の目標は、ひとつずつ税理士としての実績を積み、クライアントに信頼される税理士になることです。39歳は、企業であれば中堅かもしれませんが、税理士では若手の部類に入ります。まだまだ自分に伸びしろはあると思っています。
現在は、知り合いの紹介やクラウドソーシングサービス等を使用して、リモートで全国どこでも対応できることを売りにクライアントを増やしています。4月に開業をしたばかりですが、順調にクライアントが増えており、非常に嬉しく思っています。
将来のビジョンは、税という難しく思えることをできるだけわかりやすく伝えていきたいと思っています。そのために確定申告を行う税理士ではなく、クライアントのパートナーとして、いっしょに事業を成長させられる税理士になりたいと思います。
また、クライアントだけではなく、将来を担う若者にも税について、伝えるため租税教育にも力を入れていきたいと思います。
税理士会では、租税教育委員会というものがあり、私も委員会に属しています。小学校から大学まで教壇に立ち、税の重要性等を伝えていきたいと思います。