自社の経営状況を正しく把握するためには、客観的な指標を用いて経営分析を行うことが大切です。経営分析指標は、企業活動の成果をもとに計算されるため、客観的な判断を可能にします。経営指標の意味や考え方を身につけて、適切な経営分析を行いましょう。
今回は、経営分析指標の概要を解説したうえで、企業の収益性、生産性、安全性、成長性を確かめるのに役立つ代表的な指標を紹介します。
経営分析指標とは
経営分析指標とは、経営判断の基準となる目印です。売上高や総利益といった企業活動の成果を計算式に当てはめることで、企業の経営状況をさまざまな角度から分析できます。
経営分析指標を用いる際は、損益計算書、賃借対照表、キャッシュフロー計算書などの財務諸表が必要となります。
経営分析指標の種類と役割
経営分析指標は、収益性、生産性、安全性、成長性という4つの種類に大別できます。それぞれの意味や役割について以下の表で確認しましょう。
種類 | 収益性 |
---|---|
収益性 | 企業の「稼ぐ力」を分析できる |
生産性 | 企業がどのくらい経営資源を効率的に生かせているのかを分析できる |
安全性 | 企業の資本の調達と運用のバランスがとれているかを分析できる |
成長性 | 企業の実績がどのくらい伸びているのかを分析できる |
経営分析指標が経営分析に役立つ理由
経営分析では、市場や業界における自社の強みと弱みを把握することが重要です。強みを生かし弱みをカバーする戦略を取ることで、企業の成長性を高めるような戦略を立案できます。
そのためには、経営者の経験や直感による判断も重要ですが、客観的な数値をもとにした冷静な判断が欠かせません。その点、経営分析指標は、売上高、固定費、利益率といった企業活動の成果をもとに計算された指標です。企業の経営状況をさまざまな側面から把握・評価できるため、適切な経営判断につなげられるのです。
企業の「収益性」を確かめたいときに用いる経営分析指標
企業の収益性を確かめたいときは、以下の分析指標が有効です。
売上総利益率
- 売上高営業利益率
- 売上高経常利益率
- 総資産利益率(ROA)
企業の収益とは、企業にもたらされるお金全般を指します。営業活動で得たお金はもちろんのこと、配当金や不動産収入といった営業外で得た収益も含まれます。
収益性分析によってわかることは、「企業にどのくらいお金を稼ぐ力があるのか」です。企業の稼ぐ力を可視化することで、どのくらい利益※を高められそうか、を予測するのに役立ちます。
※利益:収益から支出を差し引いた額のこと。「どのくらい儲かったのか」を把握できる
売上総利益率
売上総利益率とは、売上総利益(粗利)が売上高に占める割合のことです。売上総利益率が高ければ、その企業の収益力は高いと判断できます。
売上総利益率(%)=売上総利益(粗利益)÷売上高×100
売上総利益率は、自社が所属する業界によって平均値が異なります。自社の数値と平均値を比較して、自社の競争性を判断しましょう。
売上高営業利益率
売上高営業利益率とは、売上高のうち営業利益が占める割合を指します。営業利益は、売上高から営業活動にかかった経費(人件費、広告費など)を差し引いて算出します。
売上高営業利益率(%)=営業利益÷売上高×100
売上高営業利益率によって、自社の本業が、どのくらい効率的に利益を出しているかを把握できます。もしも営業利益率が低い場合は、販売に関する経費の削減や販売量の増加といった改善策が考えられるでしょう。
売上高経常利益率
売上高経常利益率とは、売上高に対する経常利益の割合のことです。経常利益とは、本業の利益(営業利益)に営業外収益を足したあと、営業外費用を差し引いて算出します。
売上高経常利益率(%)=経常利益÷売上高×100
売上高経常利益率によって、本業と本業以外の利益率がわかります。「本業でどのくらい収益をあげているか」「本業とのバランスはよいか」をチェックするのがよいでしょう。
総資産利益率(ROA)
総資産利益率(Return On Assets)とは、企業の総資産に対して、どのくらい利益を生み出しているのかを示した指標です。
総資産利益率(%)=総利益÷総資産×100
総資産利益率が高い場合は、投下した資本を効率的に活用できていると考えられます。
企業の「生産性」を確かめたいときに用いる経営分析指標
企業の生産性を確かめたいときは、以下の分析指標が有効です。
- 労働生産性
- 資産生産性
- 労働分配率
- 労働装備率
時間、人手、資本金といった経営資源には限りがあります。企業の生産性を確かめることで、「自社の人材を有効活用できているか」「人材コストを削減できているか」をチェックできます。
労働生産性
労働生産性とは、従業員1人あたりが、企業活動でどのくらい付加価値を生み出しているかを確認する指標です。
労働生産性(円)=付加価値額※÷従業員数
労働生産性が高い場合、人材を有効に活用できていると判断できます。
※付加価値額:商品・サービスの価値に企業が新たに付け加えた価値を数値で表したもの。
付加価値額=売上高-外部購入額(材料費、部品費など)
資産生産性
資本生産性とは、企業が保有する資産1単位に対する付加価値額の割合を示した指標です。
資本生産性(%)=付加価値額÷有形固定資産
資本生産性が高いほど、資本1単位あたりに対して、有形固定資産が利益を生み出すために役立っているのかを確かめられます。
労働分配率
労働分配率とは、付加価値を生み出すために、どのくらいの人件費を分配したのかを確かめる指標です。
労働分配率(%)=人件費÷付加価値額×100
労働分配率が高ければ、儲けに対して人件費の割合が高いと判断できます。これは「収益は高いが利益は少ない」という状態です。反対に労働分配率が低い場合は、企業の利益は高まりますが、従業員への負担が過多になっているかもしれません。つまり、労働分配率は高すぎず低すぎない数値を目指す必要があるのです。
労働装備率
労働装備率とは、従業員1人に対してどのくらいの設備投資が行われているかを示す指標です。
労働装備率(円)=有形固定資産÷従業員数
労働装備率が高い場合は、設備投資が進んでいるあるいは技術水準が高いと考えられます。
企業の「安全性」を確かめたいときに用いる経営分析指標
企業の安全性を確かめたいときは、以下の分析指標が効果的です。
- 流動比率
- 株主資本比率
- 当座比率
- 固定比率
企業の経営リスクを管理するために、安全性分析が役立ちます。
企業経営が安定している企業は、収入と支出の管理が適切に行われています。過不足がないよう調整され資金的余裕もあるため、急な支払いにも対応できるのです。
一方で「黒字倒産」する企業も存在します。これは、売上が発生していても、その入金が大幅に遅れるなどして資金繰りがショートして支払えなくなったからです。そうしたリスクをしっかりと管理するためには、企業の安全性を分析することが必要です。
流動比率
流動比率とは、流動資産と流動負債のバランスを確かめる指標です。
流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100
流動資産とは、短期間で現金化できる資産のこと。主に1年以内に現金化できる資産を指します。流動負債とは、1年以内に支払期限を迎える債務のことです。流動比率を計算することで、急な資産繰りに対して自社が対応できるかどうかを判断できます。
株主資本比率
株主資本比率とは、総資産に対する株主資本の割合を示す指標です。
株主資本比率(%)=株主資本÷総資産×100
株主資本とは、株主や投資家が出資した資本です。株主資本比率が高ければ、多くの出資を得ていると捉えられるため、事業の安定性や将来性は高いと考えられます。
当座比率
当座比率とは、流動負債に対する当座資産の割合を示した指標です。
当座比率(%)=当座資産÷流動負債×100
当座資産とは、流動資産の1種であり、短期間で容易に現金化できる資産を指します。現金預金や売掛金、受取手形などが代表的な当座資産です。
当座比率が高ければ、突発的な支払いが発生したとしても、対応できる可能性が高いでしょう。当座比率は、企業の財務の安定性を判断する際に役立ちます。
固定比率
固定比率とは、自己資本に対する固定資産の割合を示した指標です。固定比率を参考にすると、自己資本を超える過剰な投資を行っていないか、を判断できます。取引先などからの融資は将来返済を行う必要があるため、固定比率を100%より小さくした方が、企業の安全性は高いと考えられるのです。
固定比率(%)=固定資産÷自己資本×100
固定資産とは、長期的に使用される資産を指し、土地や建物、商標権などが該当します。自己資本は、これまで蓄積してきた利益や出資金などを合算したもの。固定資産は、流動資産に比べて投資を回収するまでに時間がかかるケースが多くあります。ご注意ください。
企業の「成長性」を確かめたいときに用いる経営分析指標
企業の成長性を確かめたいときは、以下の経営分析指標を活用しましょう。
- 売上高増加率
- 経常利益増加率
- 営業利益増加率
- 総資本増加率
- 一株あたり当期純利益(EPS)
企業の成長性とは、企業がどのくらい成長できるかを数値化したものです。企業が成長する「伸びしろ」を測定する指標ともいえます。自社の売上高や利益などを、前期や過去数年のデータと比較することで、将来性の見通しを立てるのです。
売上高増加率
売上高増加率とは、特定の期間において、自社の事業がどのくらい売上高を伸ばしているのかを示す指標です。
売上高増加率(%)=(当期売上高-前期売上高)÷前期売上高×100
売上高増加率を確認することで、市場における自社の競争力を確認できます。数値が高いときは、競争力が高いと判断できます。
経常利益増加率
経常利益増加率とは、自社の経常利益がどのくらい伸びているかを確かめる指標です。
経常利益増加率(%)=(当期経常利益-前期経常利益)÷前期経常利益×100
増加率を確認することで、企業が継続して儲けを出していく能力を確認できます。いくら売上高を伸ばしても、利益率が低いままでは、企業の規模は大きくなりません。売上高増加率とあわせて確認することで、企業の成長性を具体的に確認できます。
営業利益増加率
営業利益増加率とは、本業の営業活動で得た利益の伸び率を確かめる指標です。
営業利益増加率(%)=(当期営業利益-前期営業利益)÷前期営業利益×100
前期や過去のデータに比べて、自社の営業利益がどのくらい伸びているのかを確かめることで、会社の成長性を客観的に確認できます。
総資本増加率
総資本増加率とは、当期の総資本が前期に比べてどのくらい伸びているのかを示す指標です。
総資本増加率(%)=(当期総資本-前期総資本)÷前期総資本×100
総資本は、自己資本と他人資本を合計した会社が所持する全ての資産を指します。増加率を確認することで、会社の規模が成長しているのか小さくなっているのかを一目で確認できます。
一株あたり当期純利益(EPS)
一株あたり当期純利益(Earnings Per Share)とは、株主が投資した1株あたりで、どのくらいの利益をあげているのかを示す指標です。
一株あたり当期純利益(%)=当期純利益÷平均発行済株式総数
株主への配当の原資となるのは、当期純利益となります。したがって計算式には当期純利益を使いますのでご注意ください。
経営分析指標を適切な経営判断に結びつけるポイント
経営分析指標を適切な経営判断に結びつけるためには、自社の課題や希望に沿った指標を用いることが大切です。例えば、「少ない労力で効率よく利益を生み出せているか」を確かめる際は、労働生産性に関する指標を用います。また、経営分析指標を業界の平均値や同業他社と比較することで、自社の立ち位置がわかります。同業他社と客観的なデータを比較することで、自社の強み・弱みが明確になるでしょう。
まとめ
自社の経営状態を正確に判断する際に役立つ経営分析指標。収益性、生産性、安全性、成長性というさまざまな角度から経営状態を把握するのに役立ちます。客観的なデータと経営サイドの経験や直感を活用することで、市場における自社の立ち位置や強み・弱みを具体的に把握できるはずです。ぜひこの機会に経営分析指標を活用して、適切な経営計画を立案してください。