近年、日本でも多くのスタートアップ企業が誕生しています。スタートアップ企業と資金調達は、緊密な関係にあり、成功するためには適切な資金を調達することが不可欠です。そのため、スタートアップ企業では大手企業ではめったに聞くことがないキーワードを用いた会話が頻繁に行われています。
本記事では資金調達を日本でも一度聞いただけでは分かりにくいスタートアップ企業の資金調達手段に使われる用語やフェーズごとに使われる単語を分かりやすく解説します。
資金調達手段の用語
資金調達手段は専門用語が多く理解が難しいです。しかし、用語の理解によって資金調達の方法やツールを知ることは資金調達成功の第一歩となります。
デットファイナンスに関する用語
デットファイナンス
デットファイナンスとは「Debt Finance」の訳語で、企業が借入れや社債発行など、負債を利用して資金を増加させる手法を指します。 債務(Debt)は、融資や債券の形で提供され、資金を調達する代わりに将来的に返済する必要があります。
社債
社債とは、企業が資金を調達するために発行する有価証券です。個人からも広く資金を募ることができます。また、利息も設定され、その期間中に金利が支払われます。また将来の一定の期日に元本を返済する責任を負います。
コマーシャルペーパー
コマーシャルペーパー(CP)は、企業が短期の資金調達を目的として発行する無担保の短期有価証券です。 通常は30日から270日といった比較的短い期間で発行されます。企業からすると、資産を担保にせずに発行できるため、手続きが簡略化され、迅速な資金調達が可能な点が特徴といえるでしょう。
コンバーチブルノート
コンバーチブルノートは、債券や貸付けの形で資金を提供する転換社債の1つです。先に投資を受け将来的に株式に転換(コンバージョン)できる特徴を持っています。成長段階の企業がリスクを最小限に抑えながら資金調達を行うための手段といえるでしょう。
エクイティファイナンスに関する用語
エクイティファイナンス
エクイティとは株主資本のことです。エクイティファイナンスとは、会社の事業や取組みならびに将来性等に対する評価のもと、株式を発行する対価として出資者から資金提供を受けることです。 投資家が企業の株主となるため企業の経営において投票権を持ち、配当を受け取る権利があります。
VC
VCはベンチャーキャピタルのことです。未上場のベンチャー企業など、成長が期待される企業に投資を行い、上場した場合に株式を売却し、値上がり益を狙う投資ファンドや組織を指します。
ベンチャーキャピタルは新興企業の成長とイノベーションを支え、経済において重要な資金提供源となっています。
イグジット
イグジットは、企業の創業者や経営者、出資者が保有していた株を売却し、投資した資金を回収することです。
イグジットは、投資家がリターンを実現し、投資先企業との関係を終結する重要なフェーズです。成功裏にイグジットが実現されると、投資家は資金を回収し、新たな投資機会を追求することができます。
企業にとっても、イグジットは成長の証となり、株主にリターンを提供する重要な出口戦略です。
インカムゲイン・キャピタルゲイン
「インカムゲイン」は資産を保有することで得られる利益を指します。利子や配当、事業収益など「収益の増加」がインカムゲインと言えます。
「キャピタルゲイン」は、資産の売却によって得られる利益を指し、購入価格と売却価格の差益になります。
ダイリューション
ダイリューションとは希薄化という意味で、企業が新たな株式を発行することにより、既存の株主の持分比率が低下する現象を指します。
通常、新しい株式や証券が発行されると、それが企業全体の発行済み株式総数に加わり、既存の株主の保有割合が希薄化(ダイルート)されることになることから、ダイリューション と表現されています。
資金調達手段に関する用語
グロスバーンレート
グロスバーンレートは 企業が事業運営において、製品やサービスの開発、従業員の給与、営業費用など、総合的な経費をいくらかかるかを示す指標の一つです。
グロスバーンレートが高い場合、企業は多くの資金を消費しており、事業モデルとして高コスト体質であることが指摘される可能性があります。一方で、低いグロスバーンレートは、企業が効率的に経営されており、少ない資金で事業を維持できることを示唆しています。
資金調達を行う際には、投資家や資金提供者に対してグロスバーンレートの適切な管理や改善策が提示されることが必要です。
ネットバーンレート
ネットバーンレートは、グロスバーンレートから収入を差し引いた後の実質的なキャッシュの減少率を示す指標です。
企業が一定期間(通常は月次または年次)でどれだけのキャッシュを消耗したかを示し、その結果が正の場合はキャッシュが減少していることを示し、負の場合はキャッシュが増加していることを示します。企業が事業を運営するためにどれだけのキャッシュが必要かを把握する上で用いられる指標となります
ランウェイ
ランウェイは、企業が現在の資金でどれだけの期間運営を継続できるかを示す指標です。例えば手持ち資金が1,000万円で、毎月のキャッシュフローがマイナス200万円だとランウェイは5ヶ月になります。
ランウェイが長いほど、企業は現在の資金で事業を運営し続けることができる期間が長くなります。逆に、ランウェイが短い場合は、資金調達の必要性が高まり、追加の投資や収益の創出が急務となります。
プロパー融資
プロパー融資は、信用保証協会の保証等無しに、銀行が直接自身の責任100%で実行する融資のことを指します。
タームシート
タームシートは、契約書の内容の内、主要な条件や条項を明示的に書き出し整理した資料のことを指します。
タームシートは交渉段階で使用され、最終的な契約書(合意書)の基本的な条件や要点を概説するものです。この文書は、出資者や投資家といった関係者間での理解合意を確立し、交渉の基礎を築くために利用されます。
ランニングコスト
ランニングコストとは、製品やサービス、プロジェクト、設備などを稼働・維持するために継続的に発生する費用のことを指します。 ランニングコストを的確に把握・管理することは、事業やプロジェクトの持続可能性や利益率の向上にとって重要です。
資金調達フェーズの用語
ラウンド
スタートアップ企業が成長する過程で、資金調達を行う際の段階やフェーズのことです。 スタートアップ企業や成長段階の企業が資金を調達する際には、異なる時点で複数の資金調達ラウンドが行われることが一般的です。
シードラウンド
最初の資金調達ラウンドのことです。製品やサービスのアイディアを形にするための資金や、最初のプロトタイプの開発、市場テストを行うための資金が必要な場合に行われます。
シリーズA
顧客獲得によって得られる将来も含めた収入が、顧客獲得コストを上回っている状態、あるいはそれが見込まれる状態です。販路拡大や顧客獲得に向けて、多くの資金を必要とするフェーズになります。
シリーズB
事業が軌道に乗り始めた段階です。会社をより大きくするための上場や、設備投資、広告宣伝費や人材確保など必要とされる資金が大きくなる段階です。投資資金のイグジット間近の段階と言えます。
ラウンドごとの関連用語
エンジェルラウンド
スタートアップ企業が資金調達を行う初期段階の1つです。エンジェルラウンドでは、創業者が企業を設立し、初期のアイディアやプロトタイプを持ちながら、ベンチャーキャピタルのような大規模な出資機関にはまだアプローチできない段階でエンジェル投資家から資金調達する際に用いられます。
エンジェル投資家
起業してまもない企業に投資し、経営にアドバイスやネットワーキングのサポートを行う個人投資家を指します。エンジェル投資家は通常、成功した起業家や企業経営者などがその役割を果たします。
エンジェル投資家は、スタートアップ生態系において非常に重要な存在であり、多くの成功した企業はエンジェル投資家からの支援を得て発展しています。
インキュベーター
スタートアップの成長をサポートする組織やプログラムのことです。オフィススペースの提供、ビジネスの指導、ネットワークの紹介など、多岐にわたるサポートを行います。
コーポレート・ベンチャーキャピタル
大手企業が設立・運営する投資部門や投資ファンドを指し、ベンチャー企業への直接投資を行う活動組織のことです。大手企業が出資や投資を通じ、新しい技術や市場開拓を通じて、イノベーションを促進するために行われています。
シリーズC
成熟したスタートアップが取り組む資金調達の段階のことです。シリーズCでは、企業はシリーズAおよびシリーズBの段階を通過し、市場での成功や収益の向上を達成しています。成熟したビジネスモデルや大規模な市場展開を実現するための資金調達を目的に行われることが多いです。
PEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)
プライベート・エクイティ・ファンドは、未上場企業に投資し、経営支援など経営に関与することで企業価値を高め、IPOや売却によって利益を得ることを目的としたファンドです。
企業価値の用語
企業価値とは、企業が持つ総資産の価値から負債を差し引いた純資産の価値と、企業が将来にわたって生み出すであろう収益の現在価値の合計である事業価値に、非事業資産の価値も含めた企業全体の価値の事を言います。
時価総額
企業や資産、市場などの総評価額を示す指標です。企業の規模や市場での評価を把握するための指標として用いられており、次のように計算されます。
時価総額=株価×発行済み株式数
コストアプローチ
資産評価手法の一つであり、資産が新たに購入された場合にかかるコストを基にしてその価値を評価します。この手法では、資産の取得や再建にかかる現実的なコストを元に、その資産の価値を算定します。ただし市場で実際に取引される価格や収益性などが考慮されないため、他の評価手法と併用されることが一般的です。
インカムアプローチ
インカムアプローチは、企業の将来にわたる収益やキャッシュフローを現在価値に換算して評価することです。資産から得られる収益性を重視しており、投資家や資産管理者が収益を最大化するために資産をどのように評価するかを決定する上で重要な手法となります。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチは、同じような特性を持つ事業や企業の取引価格や公開市場での価格を参考にして、評価対象の価値を導き出す方法です。 市場における実際の取引や類似の企業や不動産の取引データを利用するため、市場の価格設定や需要供給の影響を反映しやすい特徴があります。
一方で、比較対象のデータが限られていたり、マーケットが不安定な場合には制約が生じることがあります。
プレバリュー・ポストバリュー
プレバリューは資金調達前の企業の価値で、ポストバリューは、資金調達後の企業の価値を指します。
例えば、スタートアップがプレバリューで10億円の評価を持ち、新たに資金調達で5億円を調達した場合、そのポストバリューは15億円となります。
デューデリジェンス
デューデリジェンスは、資金調達の際に、事業や資産の実態やリスクを正確に理解するために行われる詳細な調査・検証活動を指します。
類似企業分析
類似企業分析は、ターゲットとなる企業と同業種、同規模の企業の株価や財務データを基に、企業の価値を評価する手法です。
マルチプル分析
類似した上場企業の評価倍率をもとにして、対象企業の価値を相対的に推定することです。 主な指標は以下です。
- EV/EBITDA(Enterprise Value to Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization):企業価値を営業利益(EBITDA)で割ったもので、企業の収益力を評価します。
- P/E(Price to Earnings): 株価を1株当たりの利益で割ったもので、株価が企業の収益に対してどれだけの倍率で取引されているかを示します。
- P/S(Price to Sales): 株価を1株当たりの売上高で割ったもので、企業の売上高に対する評価を示します。
- P/B(Price to Book): 株価を1株当たりの純資産価値で割ったもので、企業の純資産に対する評価を示します。
- EV/Revenue(Enterprise Value to Revenue): 企業価値を売上高で割ったもので、企業の売上高に対する評価を示します。
CAPM
CAPM(キャピタル・アセット・プライシング・モデル)は、資本資産評価モデルと呼ばれるポートフォリオ評価に使われるもので、期待収益率の算定に使います。リスクフリーレート(Risk-Free Rate)、市場リターン、および特定の資産のベータ(Beta)を用いて、その資産の期待リターンを算出します。
WACC
WACC(Weighted Average Cost of Capital)とは株主資本コストと負債コストを加重平均したもので、企業が複数の資金調達方法によるコストをどれくらいかけているのかを示す指標です。
キャッシュフロー
キャッシュフローとは、企業の経済活動を通じて生じる現金の流れを示す指標であり、期間内における現金の受け入れと支出の差を示します。キャッシュフローは基本的には以下の三つで構成されます。
- 営業キャッシュフロー(Operating Cash Flow, OCF):
- 営業活動に関連する現金の動きを示し、営業収益から営業費用(原材料費、人件費など)を差し引いた結果、およびその他の営業に関連するキャッシュの流れを反映します。
- 投資キャッシュフロー(Investing Cash Flow, ICF):
- 投資活動に関連する現金の動きを示し、資産の購入や売却、投資プロジェクトに関連するキャッシュの動きが含まれます。
- 財務キャッシュフロー(Financing Cash Flow, FCF):
- 財務活動に関連する現金の動きを示し、株式の発行や債券の発行、配当支払い、借入金の返済など、企業の資本構造に関連するキャッシュの動きが含まれます。
継続価値
継続価値とは、企業の将来的なキャッシュフローなどを基に、企業価値を表すものです。
企業が継続価値を持たないと判断される場合、会計基準においては「継続価値の疑義」が生じ、企業は「判断基準変更」として会計処理が行われることがあります。
FCF
フリーキャッシュフローとは、企業が一定期間に生み出す営業活動から得られる現金のうち、自由に使える現金がどのくらいあるのかを示すものです。将来の事業拡大や新規プロジェクトに投資できる余裕があるかどうかを示す指標として用いられます。
ファンダメンタル分析
ファンダメンタル分析は、企業の財務諸表や経済指標などの基本的な要因を調査し、その情報を元に将来の収益性や成長性などを予測する手法です。
その他の重要用語
マイルストーン投資
マイルストーン投資とは、一度に資金を投資するのではなく、期間または目標に応じて必要な資金を段階的に投資する手法です。
トラクション
主に製品やサービスが市場でどれだけの成功を収めているかを指します。ユーザー数や顧客数、収益で評価されることが多いです。トラクションがあると言われると、それは製品やサービスが市場で受け入れられ、成長の兆候が見られていることを意味します。
PMF
製品が市場とどれだけ適合しているかを示す指標です。製品が顧客のニーズに適切に応え、市場で成功するかどうかを評価するために使用されます。
まとめ
スタートアップ企業で働く方はもちろん、スタートアップ企業とのビジネスに関わる全ての方が、投資用語を理解し、知っておくことにより、資金調達の際の交渉やスタートアップ企業のビジネスに関する理解をスムーズに行うことができます。
今回紹介した単語は最低限理解し、資金調達を含むスタートアップ企業の事業に活用してください。