令和3年度の税制改正で電子帳簿保存法(電帳法)が大幅に改正されました。改正電帳法は令和4年1月1日から施行されていますが、まだ対応を行っていない企業も多いのではないでしょうか。今年の10月からインボイス制度も開始され、その対応のために社内手続きの見直しを始めている中小企業も多いものと思われます。
令和3年改正電帳法では多くの要件が緩和され対応しやすくなっており、その適用により多くのメリットを享受することができます。また、インボイス制度の導入と併せて対応することで効率的に適用を行うことも期待できます。
そのような状況を踏まえ、今回は令和3年改正電帳法の改正内容をおさらいし、電帳法適用のポイントやメリット、そしてインボイス制度との関連について解説いたします。
電子帳簿保存法の令和3年度改正における変更点
①一般電子帳簿区分の開始
令和3年度改正によって電子帳簿の区分けが行われ、新たに訂正・削除履歴の確保や相互関連性要件、検索要件などが大幅に緩和された一般電子帳簿のカテゴリーが設けられました。
また、従来の電子帳簿保存法の要件を満たした帳簿は、今回の改正により優良電子帳簿と位置づけられます。優良電子帳簿は、制度の適用に際して多くの要件を満たさなければならず、インセンティブとして過少申告加算税の5%軽減が適用されます。
②承認申請手続きの廃止
従来の電子帳簿保存法の場合、電子保存するためには適用を開始する3ヶ月前までに所轄の税務署へ電子保存の承認申請を行い、承認を得ることが必要でした。しかし、令和3年の改正によって承認申請手続きが廃止されることとなり、帳簿を電子保存する際の税務署への事前申請は不要となりました。
③スキャナ保存制度、電子取引の保存に関する要件の緩和
タイムスタンプ付与期限について従来3日以内に電子化しタイムスタンプを付与する必要がありましたが、令和3年の改正によって、記録事項の入力期間と同様に最長2か月とおおむね7営業日以内となりました。また、帳簿の検索要件についても年月日・取引金額・取引先のみとなり、複数条件での検索機能も必須ではなくなりました。
さらに、スキャナ保存制度においては以下の緩和が行われました。
・タイムスタンプの付与に代えてクラウド・システム(改変・修正できない記録保存ができるもの)での保存が可能
・受領者等がスキャナで読み取る際の国税関係書類への自署対応義務の廃止
・適正事務処理要件(定期検査等の社内規定整備)が廃止
④電子取引データの出力書面等による保存措置の廃止
申告所得税及び法人税における電子取引の取引情報に係る電磁的記録について、出力書面(印刷など)での保存が認められず、電子データでの保存が義務化されることとなりました。請求書・領収書・契約書などに関する電子データを送付・受領した場合には、改ざん防止の措置を取り、日付・金額・取引先で検索できるような方法で保存する等一定の要件を満たす必要があります。この点従来からの保存措置が厳格化されたといえます。この保存要件に従った電子データの保存は令和6年1月から必須となりますので、そのための準備が必要となります。
⑤不正があった場合の重加算税の加重
税務調査等で電子データにおける隠蔽や仮装などの不正が判明した場合、追徴税額の35%の重加算税に10%がさらに加重されることとなりました。
納税者にとってのメリット
それでは今回の改正電帳法を適用した場合、納税者にはどのようなメリットが生まれるのでしょうか。電子帳簿保存法を適用した場合の納税者へのメリットを解説します。
①業務の効率化
まず、帳簿の電子保存によって、社内の業務効率化が期待できます。各種帳簿データが電子化されることにより、データの閲覧・分析がしやすくなることが大きなメリットとして挙げられます。これにより、経理処理の迅速化や、経営状況の可視化・分析が容易になることが期待できます。
②内部統制・BCP対策に貢献
電子データは紙データと比較して、「可用性」「機密性」「完全性」に優れています。つまり電子保存によって、紛失・改ざんリスクが小さくなります。企業の機密保持義務や信頼性の観点で、データの紛失・改ざんは大きなリスクであることから、電子保存に移行する大きなメリットと言えるでしょう。
また電子データはBCP(Business Continuity Plan)対策に有効です。例えば災害が発生し事業所が損壊した場合においても、クラウド上の電子データを利用することが可能となることから、従来の紙保存と比較して業務の継続性の確保にもつながります。
③テレワーク移行の後押し
経理部の仕事は紙資料が多く、テレワークの推進が難しいというのは多くの会社が抱える共通の問題点です。原因としては、会社に行かなければ紙書類を確認できず仕事が進まないためです。
このような紙中心の仕事から、電帳法を適用して電子データ保存へ仕組みを変えて、自宅からPCで会社のサーバーやクラウドにアクセスすることができれば、経理部門のテレワーク勤務が可能となってきます。電帳法の適用は働き方改革を後押しする制度とも言えます。
電子帳簿保存法の対象となる帳簿書類の範囲
電帳法の対象となる帳簿書類は、国税関係帳簿、国税関係書類、電子取引と3つの分類が可能です。このうち、電子取引は令和3年の法改正によって電子保存が義務となりました。
国税関係帳簿、国税関係書類は任意での対応となりますが、インボイス制度の導入もあり紙媒体での運用は手間がかかり、経理部門の負担が増加することも考えられます。人手不足が恒常的になり、働き方改革が求められる中、業務の効率化のためにも電子取引データへの対応と併せて電子保存を検討するべきでしょう。
国税関係帳簿
以下の書類は国税関係帳簿と定義されます。これらは電子帳簿等保存制度の対象となります。
仕訳帳・総勘定元帳・売掛金(買掛金)元帳・固定資産台帳・現金出納帳など
国税関係書類
以下の書類が国税関係書類と定義されます。これらは電子帳簿等保存制度の対象となります。
決算関係書類:貸借対照表、損益計算書、棚卸表
取引関係書類(自社発行のもの):見積書、契約書、領収書、注文書、納品書、送り状、請求書
電子取引
見積書、契約書、領収書、注文書、納品書、送り状、請求書等の取引関係書類のうち、EDI(Electronic Data Interchange)取引、インターネット等による取引、電子メールによる取引(添付ファイル)などの手段でやり取りした取引データが電子取引データと定義されます。
これらの電子取引データを取引先に送付、あるいは取引先から受領したどちらの場合にも上述したデータ保存要件に従ってデータ保存をする必要があります。
電帳法の対象とならない書類
国税の法律により保存が義務付けられていない書類は、電帳法に規定する電子保存の対象にはなりません。
したがって、社内規程である定款、就業規則、給与規定、経理規程等、又は業務関係書類である株主総会議事録、稟議書、営業報告書、出張報告書等は対象とはなりません。電帳法の申請を準備する際に、これらの資料の電子保存の検討は不要です。
インボイス制度と電子帳簿保存法との関係性
電子帳簿保存法の適用を考えるうえで重要な関係にあるのが、令和5年10月1日より開始されるインボイス制度です。
消費税の仕入税額控除を受けるためには、取引の相手方、取引日、取引内容等の法定事項が記載された帳簿および請求書等の保存が要件とされており、これまではその請求書等の保存は原則として書面による保存が必要とされていました。
この原則的な取扱いは、令和3年改正電帳法の施行により電子取引に係る電磁的記録については電子データでの保存が義務化されることとなったため申告所得税及び法人税における取り扱いと矛盾が生じることとなりました。
ただし、消費税法は仕入税額控除で保存が必要とされる請求書等の保存につき電帳法の要件を満たせば電子データとして保存可能であることとしていますので、電帳法対応を行うことで、消費税法上も紙と電子データの双方が混在する状況を解消することが可能となります。
国税関係帳簿・書類につき電子保存を行わない場合であっても、適格請求書発行事業者がインボイスを交付する場合には、交付するインボイスの写しを保存しなければなりません。そして電子インボイスは電子取引データに該当するため、電帳法に定める上述した要件を満たす方法で、電子データとして保存しなければいけない点に留意が必要です。
従来の電子帳簿保存法で対応済の帳簿書類はどうなる?
令和4年1月1日時点で既に税務署長の承認を受けている帳簿書類については、以後に作成する帳簿書類についても引き続き従前の承認制度における取り扱いが継続します。
従前の制度で電子保存の承認を受けている法人等は、新たに届出書を提出することで、過少申告加算税が5%軽減となる優良電子帳簿の規定の適用を受けることができます。ただし、従前の制度で承認を受けていても令和3年改正電帳法では上述したとおり電子取引データの保存要件が厳格化されており、改正法の要件を満たすことが必要となることに留意してください。
まとめ
今回は、令和3年改正電帳法における変更点、そして導入のメリットや電帳法の対象範囲・内容、そしてインボイス制度との関係などについて解説しました。改正電帳法は多くの点で従来よりも要件が緩和されており電子化対応がしやすくなっていますので、インボイス制度の開始で対応が必要となる社内手続きの変更と併せて電帳法対応を行うことで、業務の効率化や、従業員の働き方の改善に繋げることが可能となります。是非この機会にインボイス制度対応も含めた電帳法対応をご検討することをお勧めいたします。
政府も中小企業がデジタル化を促進し生産性の向上に取り組めるように、IT導入補助金やその他の補助金事業で企業のシステム対応や設備投資に対する支援を行っていますので、インボイス制度と電子帳簿保存法への対応と併せて、補助金制度の活用も検討されることをお勧めいたします。